エピローグ 去ったあの人たちはきっと君を見守っている
リリが元暗殺者としての使命よりミリアの安全をと知らせに来てくれなければ、
そして連中の一抹の良心が重症患者を慈愛神殿に瞬間移動などしなければ俺たちはミリア達を助けることは出来なかった。そう思う。
ミリアの焼いた新作。
複数の生地を重ねてふんわりパリパリとした不思議なパン。
「ぱりぱりだから、パイなの」ファルコはそういって、肉だの甘みだの乗せたそのパンを食べた。
俺も食ってみたが、悔しいが旨かった。
「主上。主上」
誰に着せてもらったのか、地味ながら上質な布の服を着たリリがロー・アースを探しているが。
アイツはここにはいない。
「では、来年までにこの店を建て直すぞッ 」音頭を取るレッドに呼応する気の良い冒険者ども。
エイドさんやアーリィさんは大泣き。いい大人が……。ぐすっ。
「主上は何処ですか」いつの間にか背後に立っていたリリに俺は呟く。
「アイツだけの場所にいった。追わないでやってくれ」と。
「……主上。だけの場所?」不思議そうに小首を傾げる彼女に、アキが抱きついた。
「リリぃ……ちゃわ~んっ?! 」「ひっ?! 」ファルコみたいな反応だな。まぁいいけど。
そういえば、ファルコ、何処行ったんだろ。まぁいいけど、ロー・アースについて行ったんじゃねえだろうなぁ。
激しく打ち鳴らされる盃。旨そうだな。
「おい。レッド。ちょっと呑ませてくれ」知り合いの盗賊の手から一杯ひったくる。
「ちょ?! ちょ?! まてっ?! チーアッ?! 」
ごくごく。うぷっ
……。
……。
※ ※(三人称)※ ※
『車輪の王都』の小高い丘を歩く青年と、黒髪のエルフがいた。
青年はエルフの少女の足取りを無視して歩く。「お兄ちゃん。待ってって」
エルフの少女は大声で叫ぶが。「ついてくるな。エフィー」青年は取り付くしまも無い。
スタスタと歩き、立ち枯れた草を踏みしめ、まだ新しい墓石の前に立つ。
青年の前にある墓石には『エフィー ここに眠らず』と記されていた。
冬の強風が青年の耳を切り刻み、冷気が彼を苛むが彼の心の虚無にはかなわない。
見晴らしの良い墓地の一角にある墓石に彼はこの季節ではどうやって手に入れたのかも解らぬ華やかな花束を添えてみせた。
「一年ぶりだな。エフィー。なかなかこれなくてすまん」
青年は自嘲する様に微笑んだが、彼が微笑んでいる姿を見ることが出来るのは一年間行動を共にした仲間二人ですら珍しい。
「ねね。ろぅ」可愛らしい場違いな声に青年は眉をしかめた。
「ファルコ。エフィー。ついてくるなと言ったはずだ」
だが、追い払うようなことは青年はしない。
二人から見て、この青年がここまで苦悩の表情を浮かべていることは珍しい。
もし二人の子供たちがいなければ涙を流していたかもしれない。
「お兄ちゃん。この人のお墓」エフィーの瞳が墓石に注がれる。
「『私の名前』、この人から? 」不安げに瞳を揺らす少女に。青年は苦々しく俯いた。「聞くな」と。
ロー・アースは手に持った瓶の封を開ける。
その香りは優しい、酒の香り。結婚式で開けられる香り。
「ね。ね。ろぅ。どうしてお花を? 」「あいつは花が好きだった」
寂しげに青年は微笑む。
「おさけ、もったいない」「アイツは酒も呑めないまま、逝った」
彼らの眼下の海に、新年を祝う猟師たちの船が見えた。
もし。絶望に囚われても。
もし、涙がとまらぬ日があっても。
『彼ら』を思い出して欲しい。
『彼ら』に頼んで欲しい。
きっと、君の願いは叶うから。ただし、君の幸せは。君自身で掴んでほしい。
そう。『余計なオマケ』は自己責任で!
(Fin)




