11 偽善者は人の為に善を行う(チーア視点)
「俺たちはッ 『夢を追う者達』だっ!!!!!! 」
俺たちの叫びが聖夜に木霊する。ニコリと笑ってやる先にはクッキー屋の娘とその父。
「悪霊を呼ぶという噂のッ?! 」 ま た か 。
「『余計なことを言うなッ?!!! 』」三人で叫び返す。なんで聖夜の日までこんなバカなやり取りやってるんだろう。俺達。
「へんしんッ 」
奇妙なポーズをとったファルコの手元から短剣と黒い盾が飛び出し、
ロー・アースの二本の剣が、目に見えぬ魔導の刃が敵を迎え撃ち、攻撃を防ぐ中、
俺は『友人』である冬の精霊を呼び出し、氷雪の力を、生まれ持った発火の力の逆の力を持って火を消し去る。
「ホント、お前等って無粋だな。聖夜だぞ。聖夜。折角親子の感動の仲良しの日に」
俺がそういって肩をすくめると彼らは色めきたつ。
「また貴様らか。貴様らのような雇われ者に大いなる我らの目的が防げると思うか」
まぁ。仕事なしにこんなことしたら俺たちだって正義神殿にしょっ引かれるから到着が遅れたのは事実だが。
「御丁寧に慈愛神殿まで瞬間移動してくれたのは感謝するのの」ファルコが珍しく眉を顰めている。
まぁ全員『生きちゃいる』が、無事とは言いがたい、癒しきるまで相当な時間とカネが要るはずだ。
凍った壁を剣で軽くたたいてロー・アースが威嚇する。
「オルデール卿を放せ。さもなくば。コイツを斬る」何故俺の首を持ってる。離せ。バカ。
「いや、関係ないし。俺達」敵がそう仰るのはあたりまえである。ナニやってるんだか。
「チーア。さん? 」「よっ! ミリア。素敵な聖夜でありますように? 」定番の挨拶だがどう考えてもずれている。
しかし彼女は華やかに微笑んでみせてくれた。いい子だ。
「ええ。素敵な聖夜をありがとうございます。三人の剣士」彼女の華やかな笑みは修羅場の中でも輝いている。
「さてと」「いっちょやりますか」「おしおきなのの」
俺たちは武器を一斉に構え、連中に相対した。
火球が飛び交い、弓と爆裂ダートが、ロー・アースの抗魔術と俺の冬の精霊の加護が飛び交う。
小手調べ小手調べ。周辺の吹っ飛ぶ芸術品の額は今は気にしないことにする。怖いし。
「オルデール卿、請求額は控えめに頼みます」これはロー・アース。実に切実な願いである。
「構わん。思いっきりやっていいぞ」ありがたやありがたや。聖夜の施し感謝します。
壁が、床が、天井が爆ぜ、ファルコの蹴りと横殴りの盾の一撃が男たちを捕らえる。
俺の混乱の術が煌き、乱入してきた白い馬の蹄が敵を踏みしめる。
ロー・アースの剣が華麗に舞い、首領格の男を切り伏せるが、急所は綺麗に外している。
手早く搬送すれば助かるだろう。多分。
「この程度で勝ったと思うなっ」なんというか。
「定番な負け惜しみだな」「なのの」「ふあぁぁ。あとは任せた。ファルコ」
頭をボリボリかきながら戦線離脱するロー・アースはオルデールに肩を貸し、俺はミリアの腕を取る。
「あのね。ろぅ。ちいゃ。少しは手伝ってよ」
小さな妖精は呆れた口調。その口元には笑み。
緑色のテラテラした悪趣味でデカイバケモノだが、まぁファルコが負けるとは思わないし~。
「がんば」「骨は拾ってやる」
はぁ。ファルコは小さくため息。
その小さな身体を捕らえたと見えた腕は空しく風を切る。
「こっちっ?! 」
緑の血しぶきがバケモノの踵から噴き上がる。
壁が砕け、ファルコの剣が再びバケモノを捕らえる。
「あのね。手伝うのの」
ファルコに睨まれ、俺たちはため息。
ああそうだ。ミリア。
俺は彼女に声をかけた。
「さっきみかけたコレさ。多分クッキーの生地を重ねたままのものだと思うんだが」
それはいい感じにパリパリに焼けていて、実においしそうになっていた。
「売れると思うぜ。多分」
俺がそう告げると彼女は。彼女の父は満面の笑みを見せてくれた。
俺たちは偽善だ。仕事で善をするだけの存在だ。だがそれは人の為に行う善だ。
だから、俺たちは俺達を卑下するような真似は。しない。




