7 仇討ち
「最近露店を開くようになった娘が物凄く可愛い」
ミリアは自らに集まる視線に気がついていたが、華麗に流す術も見につけていた。
理由は。
きょろきょろと周囲を警戒し、却って周囲の耳目を集める不信人物。
「御父様。何をしていらっしゃるのですか」「私は貴様の父ではないぞ」
鼻毛の出た妙なつくりの眼鏡に今日ははげ頭のカツラをつけた彼女の父はいつもの威厳はまったくない。
昨今人気の露店の娘にたかる悪い虫を避けるべく父が見張っているらしい。
砂埃の舞う露店はけしてクッキーを売るにはいい環境ではない。
ミリアは最低限の出来損ないだけ置いて他をしまった。
青空に微笑みを向け、今まで起きたこととこれからの未来に思いを馳せる。
その隙に親を亡くしたストリートチルドレンの少年が売り物を盗もうと手を伸ばす。
ミリアの口元が動いた。「『発火』」
正確には発火せず『熱い』と思わせるだけの応用術なのだが。
手癖は悪いが愛想のいいストリートチルドレンの彼がミリアを見る瞳がその日から変わった。
ミリアはその日から自分の魔導の力を封印する指輪をつけるようになった。
魔導の力のない貴族はただの小娘だ。
ミリアは三日たたないうちにそれを痛感したがそれでも指輪を外そうとはしなかった。
彼女が指輪を外すときはクッキーを焼くときくらいのものである。
最近、固定客も増えてきた。
最大の固定客は実の父親なのだがお互い触れないことにしていた。
あんな事件が起きなければ。だが。




