5 涙の理由
ミリアの二つの瞳からボロボロと熱いものが流れ、彼女は大声で泣き出した。
水をかけられて消えた炎はぶすぶすと音をたててまだ熱をもって彼女の露店だったものを焼く。
人々は少女に軽い同情と野次馬根性で遠目で見るのみだった。
きっかけはそれほどのことではない。
ミリアの慇懃無礼な接客に腹を立てた人々に露店を壊され、暴力を振われただけだ。
「よーしよし。いーこいーこ」
彼女の貞操を繋ぎとめたのは争いに乱入してきたつややかな栗色の髪の幼児のような姿をした妖精族と、
頭に布を巻いた同じ種族の青年(どうみても幼児だが)、女の子のように愛らしい姿の少年の三人だった。
「コア買ったんだね」「ファルコ兄ちゃん。『怖かったんだ』と思いますよ」
爆薬を扱う少年は呆れつつも、心を癒す呪曲を奏でる。彼の竪琴は暗器であるが、一応楽器としても使える。
「まったく。ハチャメチャしやがって」口が悪くなければとても愛らしいツリ目の子は壊された露店を片付けだしている。
「あんな。あんな低俗な奴らに」「まぁショバ代いるとかロー・アースも言わなかったしな」ツリ目の子はため息。
「僕らも見ていましたが、あんな態度を商売人の小娘が取ったら誰かが怒って当然ですよ」
三人の中では一番幼いが一番背が高い少女、もとい少年が呟く。「どうしてですか。無礼ですよ」ミリアは彼。ラシェーバをにらみつけた。
「ぶれいど」「君が無礼」「ファルコ兄ちゃん。ブレイドじゃなくて無礼者じゃない」「そうともいう」
小首を傾げる幼児の姿の妖精に涙を浮かべたままクスリと微笑むミリア。呪曲の効果が出てきたらしい。
「あのね。なのね。ろぅから頼まれて、僕らはミリアおねえちゃんの奴隷をしてるの」
「奴隷じゃなくて護衛だ。バカ。それは秘密だって言われただろ。あえて色々経験積ませてある程度酷い目にあわせて、貞操と命だけは守ってやれって言われたけど」「アニキたち、メッチャダメな子ですよね」
平気で秘密を暴露するお喋りな妖精たちに呆れるミリア。
「どうして命と貞操だけなのですか。それでは護衛とは」「商売人は失敗して成功するって言う」ツリ目の幼児はそういって笑う。
「けっこうおいしいよ。これ」
華やかな笑顔を見せる栗色の髪の幼児。否ファルコ・ミスリルの笑みを見てミリアはどうでもいい気になっていた。
その様子をやきもちしながら剣に手を押さえつつ見守る兄妹とお節介な伯爵家の子息がやさしい眼で見守っていることをミリアはしらない。




