4 言うべきことがあるだろう
ワイズマンはいつもどおりのにこやかな笑みを浮かべているがその目には殺意に近い光が宿っている。
いくら鈍いとはいえ、ロー・アースも親友が怒って暴れだしたら手がつけられない事実を知っている。
「まってくださいませ。ワイズマンさま。うちのミリアお姉ちゃんが貴族なんですか」薄々察していたが。
冷気を込めた風に殺気が混じる。
「ほう。『お義姉ちゃん』ときたか」ワイズマンの微笑みに眉間の皺が加わった。
エフィーが自分の不用意な発言が誤解を招いたことを悟るより早く、ロー・アースは何処からか二本の剣を手に走り、続いてエフィーは風の精霊を呼び出す。
「『魔力中和』」「『加護なき絶望の沈黙』」「『火球爆裂』」
エルフの反応速度は人間のそれを越える。
辛うじてエフィーの術が『加速呪』のかかったワイズマンの術を上回った。
そしてロー・アースの二本の剣が親友の頭を情け容赦なくたたく。鞘がついたままだがこの鞘は金属で補強されている。
もんどりうって倒れたワイズマン。
「ワイズマンさま? 」反応が完全に遅れたミリアはおずおずと倒れた青年に駆け寄る。
「ふう」「ワイズマンさまごめんなさい」兄妹は見事な連携を見せた。二人が兄妹でなければ黒こげ死体になっていたであろう。
そして幼子でありながら大人顔負けの精霊術を自在に扱うエフィーがいなければ四人はまたもや莫大な修理費を負担する羽目になったはずだ。
「まぁお前の素性については薄々気がついていたが、説明してやってくれ」「わかりました。男爵さま」
頭を抱えるロー・アースにそばかす顔を綻ばせてみせるミリア。
「あと」
ロー・アースは力強く呟いた。
「くれぐれも誤解を招くことを友人に言うなよ」「心得ております」
エフィーはミリアの笑窪に不信感を隠せなかったが何時までもワイズマンを放置しておくわけにもいかず。
「『完全なる癒し』」ワイズマンを甦生させた。
このアパートメントの庭は荒れ放題だがかなり立派なものである。
その中央にて起き上がる青年に手を貸すミリア。
「お久しぶりです。侯爵家の娘改め、男爵様の愛妾のミリアと」「死ねロー・アースッ!!!!!!!!!! 」
火球と水球と剣がまた閃いた。




