3 川にて
「おっさかな~?! おっさかな~!!」
遠くの川の方角でファルコが叫んでいる。
案の定、彼はドワーフの子供達に混じって遊んでいる。
鉱山から出ている川はそのまま水源になっているらしい。
「いちおう、言っておくがドワーフの技術は完璧だぜ。ちゃんと綺麗な水を出している」
とりあえず窯を閉じることにした『藍銅鉱』は俺についてきていた。
『孔雀石』は後で村長の所に向かうらしい。
「ファルコ! 遊べとは言ってない!!!」
俺は彼を怒鳴りつけた。子供と変わらん。
「ふぁるでいいの~」「うっさい! 川を調べろって言っただろ!!」
「……むにゅ」「……なんか変なことなかったか?」
小声でファルコが呟く。「お魚さんと水草さんが苦しいって言ってる」そうか。
「変なこと?よそ者のおねーちゃんが機嫌悪いことっ!」ドワーフの子供達が笑う。
「おにーちゃんと言えっ??!!」俺は叫ぶ。隣で『孔雀石』がクスクス笑っている。
「え~。だって髭ないよ??!」
「ドワーフ以外の種族の男は髭を剃るそうです」
子供達の疑問に『孔雀石』が微笑んで答える。
子供たちは不思議そうに歓声を上げた。
「へぇ。変なの!!」
「オカマ野郎と結婚するくらいなら、『藍銅鉱』と結婚すればいいのにね。『孔雀石』ねぇちゃん」
「!!!!」
「ッッ??!!」
一斉に噴出す二人。
「え?『藍銅鉱』兄ちゃんと『孔雀石』姉ちゃんって仲良しじゃん」
「普通結婚するよね」
子供は鋭い。そして自重しない。
「……」
「そ、そんなことは……」
戸惑う『孔雀石』。
「無いの?」
不思議そうに問う子供達。
「……」黙る『孔雀石』。
子供は無知ゆえに残酷だ。
ここで「無い」と言えば「嘘がつける」事を自分で『孔雀石』は証明してしまう。
「さぁ?こういうのは大人のお話だからな!
それより、テメェら。人をオカマ呼ばわりしてタダで済むと思うな?」
俺は助け舟を出した。……俺の足元の水が沸騰して、子供達は悲鳴を上げた。
……。
「どうだ?ファルコ」
『孔雀石』は村長宅に。『藍銅鉱』は窯をしまうために戻っていった。
人間と違って生活基盤を失うことを恐れて被害を拡大するより、間違いがあれば正すのがドワーフらしい。
焼いた魚を手にファルコはくんくんと鼻を利かせる。
「……『砒毒』は解りにくいね」お前は犬かっ??!
「ちょっと食べる程度なら妖精はだいじょぶ」……。
「妖精は毒そのもので身体を壊すことはないけど、
毒があると身体の中の精霊さんの力に変調をきたすことがあるの」
つまり、死ぬってか。
「"浄水"」
俺の精霊の言葉に応えた水の乙女の手が焼いたお魚に触れる。
「うん。これならだいじょうぶなの」
彼はうれしそうにお魚にしゃぶりついた。
「なぁ。ファル」「うん? なに? ティア」????
「てっ??!てめぇ??! なんでその名前を知ってる???!」
「?」不思議そうにしている彼を睨みつける俺。
ぽん。と手を叩くファルコ。ニッコリと微笑んだ。
「初めて会ったとき、ティアって言ってからチーアって言い直した」???
「あと、ティアは怪我していたけど、ぼくらの服を"浄水"で綺麗にしてくれたよね」
あ、ああ。汚れてたしな。
「ティアは殴られてただけ。殆ど血が出て無かった。ホコリ程度なら叩いたほうが楽。
なのに、"浄水"を使いたいくらい服が汚れていた。
喧嘩で怖くなってウンチやおしっこ漏らしたのとは違うみたいだった」……。
「あと、匂い。女の子の匂いがする。ぼくらは犬と同じくらい鼻が利くんだ」
こ、コイツ。賢い??!!
「が、ガキの癖に妙に鋭いな」
「……ぼく。15歳だぁよ?」
「俺より年上っ??!!」マジか。マジか。マジなのか。
「だ、黙っておけよ?」「うん。ぼくの名まえはみすみるなの」
「……ミスリルだろ」
「そうともいう」「……軽いって言うオチかよ」「硬いんだよ」
そういって奴はウインクした。不安だが信じよう。お調子者で有名な妖精族の言葉を。




