15 王族の森で狼藉を働くものは死罪である
炎をつけられた宿の前で俺たちは相対する。
赤々と燃える宿。喉を焼く煙の臭いに目玉に染みる火の痛み。
「ロー・アース。ザマァねぇな」「すまない」お父さんたちを守ってくれてありがとう。
「ガウルのおっちゃん。しっかりするのの」お父さんは指を潰されていた。
「関係ない宿まで燃やすなんて酷くねぇか」お父さんはそういって笑うけど。
指。取れているんだけど。弓、引けないよ。それじゃ。
「どうして、どうしてこんな酷いことするんですか」『しのぶくさ』が叫ぶ。
「貴様らが逃げるからだ」「お姉ちゃんを逃がしたのは僕です。おねえちゃんや他の人たちは関係ありません」
小さな身体を乗り出して抗議する『わすれぐさ』に彼らは嘲笑した。
「カチコミしてくれてそれはないだろう」殺しておけばよかった。
「ガウルが敵に回るのは想定外だったが」男たちの一人は笑う。
「さすがにこの数には勝てなかったようだな」
あちこちの木々が丸太のような大穴を開けられて悲鳴をあげている。
木々の記憶から先ほどまでの戦いの激しさが伝わってくる。
魔法によるカモフラージュがある猟師小屋を使い、
『かぜをおるむすめ』をなんとか守り抜いた親父だったが、
親父のいないこちらは守りが甘かった。
先に避難していた女共が街中の二号店側にいたのが不幸中の幸いだ。
たかがアパートメントを攻めるだけであの戦力だ。簡単な砦並みの防御力のある宿を攻めるには充分な数だったのだろう。
「王族の森で狼藉を働くと死罪だぞ」「その王を倒せばいい」そういって彼らは笑う。
「神の子の子もまた、神と言うではないか」下卑た笑みを俺に向ける連中。
「ガウル様。申し訳ありません」『かぜをおるむすめ』が叫ぶ。
「その二人の子供を押えろ」「はい」しかし。
子供を奪おうとする彼らの動きが止まった。
「この女自分の舌をッ?! 」「癒せッ?! 『風を織る者』を殺すなッ 」
口元から血を流して倒れる『かぜをおるむすめ』。慌てふためく男たち。
すべてが夢のように感じる。ふらふらした頭をなんとかしっかりさせたのは。
「はむ」脛に噛み付くファルコだった。何をしている。
「母さんッ」子供達が飛び出そうとするのを必死で抑える俺とラシェーバ達。
俺は声無き声を聞いた。精霊の言葉は『声』を必要としない。
「私の自由って、『死ぬこと』みたいです。チーアさん」それも叶いませんでしたけど。
そういって剣の柄で殴られて倒れる『かぜをおるむすめ』。
「お母さんッ 」「母さんッ 」子供たちの声は彼女に届いただろうか。
「俺は手を癒すツテがある。やつらは『風を織る者』を粗末には出来ん。
それより、ロー・アースを何とかしてくれ」お父さんの台詞に少し落ち着きを取り戻す。
「クズどもに我らの崇高な理想など理解できないだろうが」くず?
「チーアさんたちは屑ではありません」『しのぶくさ』が俺の手を振り払い前に一歩出る。
「屑は屑でも、屑石です」『わすれぐさ』は呟いた。
「ダイヤモンドを護る。屑石です」
二人の台詞は敵の注意をひきつけ、俺とエフィーが癒しを行う猶予を作る。
「奴隷如きがいってくれる」笑う彼らは『かぜをおるむすめ』を踏みつけて見せた。
「私は 私たちは もう奴隷ではありません」幼い少女は呟いた。
炎に燃える宿を、倒れた母を目の前に、憎い敵に諭すように。
『わすれぐさ』の言葉が響く。
「厚い雲に塞がれた冬の夜空の上に心の星を見る者。冬の風に春の訪れを信じるもの。鞭に抗い、ほほえみを護る者」
『しのぶくさ』は良く通る声で宣言した。
最初の剣士の末裔。鴉との友情を信じ冬空を見上げる小さな震える子犬……。
「わたしは。私たちは。『夢を追う者達』です」




