14 炎
おい。嘘だろ。
俺たちの目の前。赤く輝く一つの宿。
「店がっ 」宿の息子が火を消そうとするが、その手は小さく弱く。
バチバチという音と、焼けた石が砕け漆喰が割れる音がする。
「おとうさんっ ローッ!? ロー・アースッ?! 」
「火を消してくれっ! チーアねえちゃんっ!? 」
幸か不幸か、二号店側にいた店主と女将は被害に遭わなかった。
辛うじて逃げることに成功した少女の容態は芳しくない。
「チーアさん。ごめんなさい。負けちゃいました」「ばか。生きているだけで嬉しいわよ」
少女の小柄な身体を抱きしめる俺の背中に、火の粉が当たった。
「来たか。遅かったな。神の子」
黒い髪の男たちは愉しそうに笑うと俺に告げた。
「もう一人の神の子を何処に隠したか吐いてもらおう」神の子?
「もう一人の黒髪黒目の半妖精だ」……。
俺の知識に、俺と同じ黒い髪の半妖精は一人しか該当しない。
大切な友人と結ばれ、平凡な家庭を築く夢を見たひとりの少女。
様々な不幸に見舞われ、心を壊し、再び世界を見つめるその日まで眠る少女。
「彼女は、幸せな夢を見ている」
俺は首を軽く振ると燃える宿を睨みつける。
その言葉を聞いた男たちは何が可笑しいのか軽く笑った。
バチバチと燃える宿は、俺たちがはじめて出逢った場所。
俺たちが泣いて、笑って、騒いだ家のような場所。
「何を言ってるんだかシラネェが」
俺は男たちを睨みつける。「火消すのを手伝え。バカ」




