13 娘は預かった(まさに鬼畜)
天井に大穴が開いた部屋の中で彼は苦笑い。この部屋はとにかく狭いのだ。
「押入れにコソコソ姿を隠したまま入っててカッコつけようったってそうはいかねぇ」「微妙に萌え。なのだね」
状況を説明するととてもとても情けない。この部屋は一室だけが兄妹の生活スペースで、スライド式の扉の奥は収納庫になっている。下段は雑貨や冒険の道具。上段は布団いっぱい。
天井から木屑がパラパラ落ちる。少し雪が混じっている。
「いや、危うく眠るところだった。なんと言う恐ろしい罠だ」ナニやってるんだよ。オッサン。
「よだれ。よだれついていますよ」「すまんすまんお嬢ちゃん」馬鹿みたいだが可也の使い手らしい。
ラシェーバだかラシューバに指摘されて寝癖を直して唇の周りの涎あとを拭い、目やにをとってハンカチで鼻を咬む姿からは想像できないが。
「……」「……」兄妹二人がロープを手にそろそろとその娘に近づき。
「えい」「ユリ。騒がない」
必死でぐるぐる巻きにしていくのを見ながら俺たちは苦笑。
「助けないのかよ」「女神殿のほうが厄介だからね」
『オシイレ』の中の『フトン』に入ったまま眠ってしまったらしい。気持ちはわかるが。
「アレでも腕のいい魔導士だったのだが、ああなってはタダの小娘だな」バカだろ。
俺たちはオッサンに叫ぶ。
「娘は預かった。返して欲しくばとっとと連れて帰れ」「女神殿は鬼畜ですな」
冬風が天井から突き抜けて、室内の温度をどんどん奪っていく。
扉を開けてふくれ面をみせているのはエプロンドレス姿の黒髪の美女と気の弱そうな青年。
そして鎧姿の連中をベロンベロンに酔わせてなおも騒ぐ酔っ払い軍団。
肩をすくめて見せるオッサンだが、先ほどから微塵の隙も見せない。
いや、隙だらけなのだが、周囲から『危険』の気配がする。
天井の上からはファルコが弓を、ラシェーバが刃銀線と飛び出し針を仕込んだ竪琴をオッサンに向けている。
多分、姿の見えないピートやリリも彼を狙い、
胸元の飾りボタンから手を離さないホーリィも何かあるのだろう。
「各種の精霊に守られ、引退冒険者や兵士の巣窟でもあるアパートメント。
気弱で子供好きと思いきや凄腕の魔導士、引退女剣士の管理人夫婦。
線使いにして火薬使い。暗殺者に軍師。盗賊ギルドの大幹部の息子に女神まで出てくるとはね」
そういっていやそうに上げた両手をヒラヒラさせて見せる。
「因果律に愛された星の御子たちを敵に回して勝てるはずが無い。ここは撤退が賢明かな」
そういって大仰にポーズを取りながら笑う彼は気がつくと娘を取り戻していた。
「え??! 」「ふふ。ここは撤退する」
「さすがの私も女神殿か子供たちか仲間のどれかしか運べないからな」
その声と共に。消える。あとは散らかり放題の部屋と冬風のみ。
「へっくしっ! 」「ふぎゅ! 」
ラシェーバ、降りてこい。説教だっ!
「とりあえず戦勝祝いだなっ 」住民たちは捕縛し、酔いつぶれた傭兵どもを抱きこんだまま酒盛りを再会しようとするが。
「酒盛り前に雨漏りを治してくださいっ! 」エプロンドレスの娘が大声で叫んだ。
雨漏りってレベルじゃねーぞ。これ。




