12 襲撃
「チーア様」「なんだ。リリ」「行って来ます」
この元暗殺者は無表情に近いが、子供やファルコ達に囲まれていると少し穏やかな表情を見せる。
その表情が引き締まっているという事は。気がつくとピートも消えている。
ペコリと頭を俺たちにさげ、子供たちの頭を撫でて小さく微笑む彼女に。
「前は死んでいいとか思ったけど。死ぬなよ」「あら」今度は微笑まれた。
「ファルコはここにいて。ぼくそんなに強くない」「みゅ」
ホーリィは何処からか笛を取り出し、愉しげな曲を奏でる。ナニやってるんだろう?
ファルコにいたっては黒い盾を取り出してその裏をホーリィの後ろに立てている。
そういえば彼の盾の裏を使うと竪琴の音を前方だけに遠く響かせることが出来たっけ?
階下では相変わらずのドンチャン騒ぎを住民たちが繰り広げている。らしいが。
「ぎゃはははっ! もうちょっといくよ~! 」「呑みなさい。騒ぎなさい」はぁ。大丈夫かしら。
「盾。設置済み? 」「3つもあれば可也フォローできるのの」??
このアパートメントの住民とは異なる歌声が響いた。つまり、侵入者を意味するわけで。
ホーリィの笛は歌声を喚起させる呪曲だったらしい。
「兄ちゃんたち大丈夫かなぁ」「まぁピートは正面からはてんでダメだけど不意打ちは得意だから」
糞尿入れの瓶に紛れ込んでも不意を討つらしい。前々から思っていたがキタネェヤツだ。色々な意味で。
笛の音が響く。「『1と5』らしいのの」ファルコがノンビリと呟く。
「子供たちを任せたの。ホーリィ」「うん。ファルコも気をつけて」
住人たちは相変わらず階下で騒いでいるが。
「隠密部隊は倒したかな? 」「追加2」ノンビリと二人は報告しあう。
「意外と多かったね」子供たちが脅えているので抱きしめてやる。「大丈夫。大丈夫」
ボン
子供たちを庇って咄嗟に風の防護を使う。
「襲撃??! 」「ううん。屋根の上の敵をぶっ飛ばした。『ばくだん』って言うの」
おい。屋根の上どころか部屋の中無茶苦茶だぞ。
「ラシェーバッ!? やりすぎ~! 」「なのの! 」「あはは。チャンスだとおもってやってしまいましたっ! 」
天井の大穴から顔を覗かせた女の子がそういって笑う。可愛らしい猫の耳がついたジャンプスーツに焦げのついたボロボロのマント姿。ファルコの同族らしい。
「らしゅーばは『はっぱし』っていう珍しい技の持ち主なの」錬金術の一系統らしい。
「ファルコ兄ちゃん。『ら・しぇ』」「らしゅ? 」小首を傾げるファルコにラシェーバと呼ばれた少女はうなだれて見せた。
「らしぇーば」「らっしぇ」おまえらふざけているだろ。
彼女は大穴から俺を見下ろすと一言告げた。
「あと私は男の子ですから」「へ? 」「え? 」「うそ? 」
俺と子供たちの言葉を聞いて「また間違えられた」と彼女。いや。彼は肩を落として見せたが。
急に目を見開き、何処からか竪琴を取り出す。
華麗な曲が流れ、何処からか悲鳴が。ごめん。女の子にしか見えない。
「姉ちゃん。怖い」お前そればっかりだな。『わすれぐさ』よ。
「しっかりして。ユリ。私をあの時逃がしてくれたでしょ。ユリは。『わすれぐさ』には勇気があるのよ」『しのぶくさ』ことシノが弟に抱きつく。
階下では相変わらずの馬鹿騒ぎだが時々悲鳴が混じるってことは宴会しながら戦闘しているのだろうか。
「火つけてくるだろうけど、おちついてね」
というか、『ばくだん』で天井ふっとばして何を言う。ラシェーバ。
「水の精霊と樹木の精霊の加護があるっぽいな。この建物」
ちなみに、水の精霊や樹木の精霊の加護のある建物に火をつけようとすると。あ。悲鳴。遅かったか。
「……」
遅まきながら建物から伸びた植物の蔦がラシェーバをペチペチ殴っている。
植物の力を得ている妖精族だからあまり殺人的な攻撃は受けないだろうけど、なに自滅しているんだ。
『爆発』は炎を伴わないタイプだったらしいので『建物』の対応が遅れたらしい。
「いたい~ いたい~! ゆるして~! 」蔦にペチペチたたかれて涙目のラシェーバ。
「なにやってるの。ラシェ。説明したでしょうに」「というか、エルフに育てられているのに」
話を聞くと冒険仲間のエルフの義親に幼少時から育てられていて、自分を今でもエルフと思いこんでいるらしい。あんなエルフがいるか。ってコイツらも一応エルフか。
「ぐるぐる巻き巻き♪ 」愉しそうだな。お前。
ファルコとホーリィが必死で蔦を宥めているが、苦労しているな。お前等。
ここまでファルコの同族が揃うと壮観だ。幼児が馬鹿やってるようにしか見えないがその馬鹿の規模が違いすぎる。天井ぶっ飛ばすとか。
「あとはお前等だけかな」
俺は足元に隠していた弓を咄嗟に取り上げて引き絞る。
『姿隠し』で身を隠していた男は俺に弓を向けられて苦笑いしながら腕を上げて見せた。




