7 愛の結果。こんな乱暴娘に育ちました
少女、『かぜをおるむすめ』は『呪われ子』と呼ばれていた。
エルフは人間と子を成すと不死性を大きく損ねるらしい。
その影響が周囲に出ないよう人間と子を成したものは『追放』される。
永遠を生きる彼らにとっては死より辛い罰といえる。
「私は親の顔を存じないのです」
酒場のバイトで木の器を油のついた布でぬぐって手入れする俺の隣で彼女はそう言った。
「ああ。でも。愛情ないと『穴』が出来ないから物理的にヤレないって親父が」「がぶっ?! 」
いきなり賄いを噴出してゲホゲホと胸を叩く『かぜをおるむすめ』ことコットン。
今までの儚い印象とまったく違う様子に俺は苦笑する。
「な、な、なんですか?! それはっ?! 」「親父の言うことだからホラだと思うが」
本来、エルフには生殖器がないらしい。恋をすることで性差が生まれる。そうだ。
「おまえさんの名前の『むすめ』って言葉。
人間の感覚で言えば『雌株から生まれたもの』が正しいんだとさ」
恋した相手が女性なら、当然男性になる。ややこしいったらありゃしない。
それを聞いて、『かぜをおるむすめ』は少し嬉しそうに微笑んだ。
「どっした? 」「ガウル様と奥様は愛の結果、チーアさんを得たのですね」……そうなるな。
「私も、愛の結果生まれたのですね」「そういうことになると思うぞ」
そう告げると、彼女の儚げな笑みは心底嬉しそうな笑みに変わった。
給仕役の『かぜをおるむすめ』は半妖精ということもあり、
バイト先の『猪狩亭』の客たちに絶大な支持を得るに至った。
容姿端麗。儚げな様子とセクハラ対処のスキル。安酒場に合わない細やかなサービスは荒くれの女どもからも可愛がられており。
「今夜あたいとどうだよ? 銀貨二十枚ッ 」セクハラするな。馬鹿女共。
そんな彼女らに小首をかしげてすっとぼけるコットン嬢こと『かぜをおるむすめ』。
見た目だけなら俺とほとんど同い年だからな。騙される連中が哀れだ。
俺は容姿が良いということで給仕を頼まれていたが、
速攻で器掃除の仕事に替えられた。理由は聞くな。男の格好の俺の尻を触るな。変態どもめ。
「そろそろ、お開きにしたいのですがッ 」『猪狩亭』の主人が叫ぶ。調理担当はここからが修羅場。
「チーアッ 手伝えッ 」あいよ。
厨房では主人や俺、薪番の『しのぶくさ』煙を吹く仕事の『わすれぐさ』にロー・アースと大忙し。
「もうちょっと薪増やせッ シノッ」「はいっ 」「もうちょっと吹くのはゆるめで。あと目に灰が入るぞ。そこに立つな。ユリッ 」「はいッ 」
エルフの名前って呼びにくいんだよな。ここでは『しのぶくさ』は『シノ』。『わすれぐさ』は『ユリ』って名前になっている。
野郎なのにユリ。どうかと思うぞ。違和感無いのもまた情けない。
「ちぃやっ! はやくくるのっ 」はいはい。
ファルコが舞台の上で踊っている。優れた身体能力を活かした踊りは時としてテーブルを、椅子を、壁を蹴って、ふわりとお客さんの背に舞い降りて笑いを取ったりしている。
「では、当店が誇る『歌姫』。謎の吟遊詩人『ユースティティア』様の歌で今夜は〆とします」
おい。もうやめてくれ。ロングスカートに着替えながら俺はズズンと嫌な気分になった。




