第二十夢 忍草と忘れ草 プロローグ
『車輪の王国』の王都の郊外に小奇麗な森がある。
本来王族の森となっているが一般庶民でも立ち入りが認められている。
王族と管理人の一族等を除き禁猟区ではあるが。
其の森を歩く俺。
清涼さを讃えた冬の風は身を切る冷たさだが、この先にはその冷たさをおぎなって余りある温かいスープを出す店がある。
「よっ」六角形の塔の形の宿に入る俺。
「……ちいやっ! 」「チーア? 」
てけてけと駆けて来るファルコ。俺に飛びついて抱きつく。
背中をぽんぽんと叩いてやる。よしよし。愛い奴じゃ。
「チーア。大変なことになったぞ」
そういってあくびをするのは、俺たちのリーダー?ってことになっている男。
頭をボリボリかいている姿にはやる気の欠片も感じない。其の名はロー・アース。
「なんだよ? 」
そういうと、俺の座るはずの席に小さな少女が座っているのに気がついた。
ボロボロの木繊維で出来たズタ布袋を貫頭衣代わりにかぶり、
靴はおろか下着すら身に着けていないようだ。
「コレ、お前の娘? 」
脅える娘をあやす俺。歳は10歳前くらいか?
「んなわけあるか」ため息をつくロー・アース。
「新しい仲間なのっ! 」「はい?」
ファルコはのんびりと衝撃の事実を告げた。
俺はファルコと、娘を見比べた。
薄暗い店内で震える娘は、俺の顔を眺めている。
獣脂の匂いが鼻につくが今に始まったことではないし、周囲のヤクザ者の喧騒が五月蝿いのも、
お節介な冒険者どもが騒ぐ振りをしながら俺たちの会話の行方に気を使っているのもまたいつものこと。
「おなまえは~」
ファルコが愉しそうに質問する。
『しのぶくさ』です」
少女は呟くと、俺から目を逸らした。
ガタガタと震える姿は心、ここにあらず。
「いまから、彼女の弟を奪還する」ロー・アースは苦笑いしながら、たちあがった。
「『わすれぐさ』。ごめん」シノブクサと名乗った少女は自らの肩を抱き、涙を流した。
「ちょ? 意味わかんねぇ?」
俺が質問すると、ファルコは真剣な顔で呟いた。「わかんあくていいのっ!」
「『冒険者』の掟って知ってるか?」???
「仲間を護る事だ」「なのっ!」
俺は。俺たち冒険者たちは一斉に立ち上がった。
所謂カチコミである。後始末をするアキやエイドさんやアーリィさんを思うと今から憂鬱である。




