エピローグ。微笑みの我が家へ
「どうするつもりだい? 」俺達はグローガン達に問いかける。
「まぁ、ど~しようもないし、父ちゃんの仕事継ぐよ」
本人に技術はなくても、人と仕事は集まってくるし、なんとかなるだろう。
「俺達もグローガンさんについていきます!! 」手下達は笑う。
「まぁ、いい機会だし、王都で仕事してもいいだろ」アンジェラ婆さんも微笑む。
「これだけ若いのが増えると教えるのに苦労しそうだねぇ」と楽しそうに続けた。
「ど~しようかなぁ」
アンジェがもじもじして笑っている。……ん??
「どうした? アンジェ? 」
「未来の棟梁の奥さんも悪くは無いかな? 」おいおい。
「昔からおっさんで、下手糞だし、乱暴でナニもアレだけど。最近ちょっとカッコよくなったかな? 」マジか??!!
「勘弁してくれ。アンジェ」グローガンは嫌そうにしている。
その様子にアンジェは驚愕の事実を告げた。
「なによ? 安宿にいた昔ならさておき、引退前は一晩銀貨一万枚よ??!! 」マジでっ?!
「いやいやいや。やっぱり昔の知り合いは」
「むっか~~!! 糞チンピラの頃も知った上で言ってあげているのに!! 」
うーん。意外な組み合わせだ。冒険者を始めて一番驚いたかもしれない。
「いいじゃないか? ちょっと幼いけど、お前ロリコンだろ? 」「かぁちゃん……違うよ」
グローガンは泣きそうな顔をしている。違ったっけ。
「じゃチーアに乗り換える。もう女の子でいい」「いやまて。チーアさんもなんか言ってください」おい。俺に振るな。
「今すぐ! 今すぐじゃなきゃ駄目!! 」「すいません今すぐは勘弁してください」「だっさ!! 」
膨れるアンジェに「優しくはするから、乱暴にはしない」とだけグローガンは笑った。
「たださ」とグローガンは続ける。
「助けた小さな女の子いたよな? 結婚してくれって言われてるんだが」おい。
やっぱ若くて、男知らないほうがいいよな? 男からすると。とグローガン。
「……」「……グローガンさん」「なんぼなんでも」「それはドン引き」
アンジェは怒気を孕む声を放つ。目元に涙が浮かぶ。
「やっぱ辞めた。逆玉捜す」そのほうがいい。ちょっとねぇ。
「まてっ! まてっ!!! まてって!!! 悪かった!! 」「知らない!!! 」
去っていく二人。肩をすくめる俺とアンジェラ婆さん。
「失礼します」とマリア。
「おまえいたのか」「失礼ですね」マリアは膨れた。
「どこで育て間違えたかねぇ」「ホント、一言以上多いんだよな。グローガンさんも」
「つか、絶対言っちゃいけないだろ。好きで選んだ人生じゃないし」俺もむかついた。
いんや。と婆さん。
「好きで選んだ人生でも息子みたいになることもあるさ」確かに。
そして微笑む。「でも、幸せを掴むのは別問題さ」そっか。
「夢を叶えるより、幸せになったほうがいいって、最後は気づくものだしねぇ」……。
旦那さんってそんなにカッコよかったんですか? 俺が問うと、
「そりゃ、逆玉をいくらでも狙えた私が本気で惚れたからね!
喧嘩は見掛け倒しで弱かったけど、一本気で男気あったよ! 」婆さんは笑った。
グローガンもそうなるのかなぁ? ちょっと無理そうだけど。
「あの子は、あの子なりにやっていくさ」婆さんが言う。
「こんな素敵な友達と仲間がいるじゃないか。駄目な子だけど、友達だけは大事にする子だしね」
でも、女心は駄目駄目ですよ???!!!
「仕方ないよ。人間苦手ってもんがあるさね」と婆さんがため息をついた。
「ホント、女の子には優しくしろって言ったのに聞かなかったし」まったくだ。
婆さんが俺の手を握る。恐縮する俺の背中をポンポンと婆さんが叩いた。
「本当に、いろいろありがとうね」「いえ。なにもしてませんし」
伝説の冒険者に感謝されるようなことはなにもしていない。はずだ。
「いえいえ! マジで遠慮しなくていいですよ! 」「やっぱチーアさんたちのおかげですし! 」
「よく殴ったり殴られたりしましたけど、おかげで就職できました! 」「俺も彼女ができました! 」
まじか。それは奇跡と言っていいぞ。
「俺も背が伸びました! 」「うそつけ! 」大して変ってない。
「俺も金ためたら故郷の農園継ぎます! 」もうなにもいうまい。
「ところで」婆さんが言う。ウインクまでして。なんだろ?
「アレですよアレ」グローガンの手下どもが笑う。
「そうそう」気がつくと顔中引っかき傷だらけのグローガンとふて腐れたアンジェ、
連れ戻しにいったらしいマリアが戻ってきている。
……あのたんこぶはマリアの所為か……痛そう。
「なんだよ? 」
ワケわかんねぇ。隣にローとファルコがいつの間にかいた。
「おかげで息子が更生したよ。ほんと有難う」二人と握手する婆さん。
「最後にアレ、たのんます」
グローガンが頭を下げる。????
「お前ら!! 何者だ!! 」
グローガンがおどけたように叫ぶ。
「俺達はっ! 夢を追う者たちだ!! 」俺達三人は叫び返す。
「「死神が憑くって噂の!!!!!!!?? 」」」
グローガン一味のみならず、婆さんやアンジェたちまでわざと驚いたように言う。
「「「じゃかましいわっ!!! 」」」俺達三人は笑いながら叫び返した。
「たぶん、これが最後だと思いますから締めに一発欲しかったんですよね! 」大笑いするグローガン一味。
「グローガン一家は永遠ですよ?! 」「どこまでもついていきますって! グローガンさん! 」
手下達が駆け寄ってくる。「お前ら……嬉しいこといってくれるじゃねぇかあああっっ!! 」
号泣するむさ苦しい男共を見ながらアンジェがぼやく。
「やっぱ辞めた」むさ苦しいと続ける。
そんなこと言ってやるなよ。アンジェ。
「ふふ。最後は丸く収まりましたね」マリアは楽しそうだが。そうかなぁ?
「つきあってらんね」「だねね」
ローとファルコも呆れている。
帰ろうか。俺が言うとローとファルコも続いた。
「ありがとおおおおおお!!!! 」
大声が遠くから聞こえてくる。俺達は歩きながら黙って手を大きく振る。
振り返りはしなかった。
もし、郊外の森の中の小さな冒険者の店を訪れる事があったら、
迷うことなく俺達を指名して欲しい。きっと、願いは叶うから。
ただし、『余計なオマケ』については自己責任で!
(Fin)
(おまけ)
「ところで」ロー・アースは不満そうに呟いた。
「どうした? 」相変わらず金が無い俺達は新しく出来た側溝さらいの手伝いだ。
まったく、意外と重労働で困る。
「あのね!なのね!おばあちゃんたちからお金もらってないの!! 」
「あっ……!!!! 」




