1 調査開始
「はぁ。お嬢。俺ら、呪われることなんかしてませんぜ」「まぁ脚はノロイっすがねぇ」
ドワーフが冗談を言ったっ?!ドワーフが冗談を言ったぞっ?!今ッ!!
夜が明け、俺たちは調査を開始した。本当に呪いかどうか、気になるところだし。
「村長も迷信深いっすからねぇ」
「さもありなん。魔法の祈祷も効かないんだからな」
この二人は若者らしい。軽口の多い連中だ。
「なんか、痛いところとか痒いところとか気になることはありませんか?」
「細かいことは気にしないからなぁ。俺達」気にしろッ!調査なんだからッ!
若手は良いが、年寄りどもとなると「沈黙は金やミスリルに勝る」らしくマジしゃべらねぇ!喋れないんじゃねぇか?コイツラっ!!
「……」「……」「(村長宅のほうを見る)」
「(川の方を見る)」「(掘り出した塵を集める山を見る)」
「(『藍銅鉱』の窯のほうを見る)」
ええいっ??!なんか喋れっ!!
「解りました。
長老様方曰く、お父様に聞けと言うことです。
あと、川とズリ山、『藍銅鉱』の窯を調べろと」
……なんで解る。『孔雀石』さん。
「川はファルコ。お前が行け」
「うん!」遊びに行かせるな。ロー・アース。
「俺はズリ山……掘り出した塵を積んでいる所を見てくるから、お前は『孔雀石』さんと窯に行け」
「なに仕切ってるんだよ。ムカつくんだよ」
俺は奴の胸を払った。肩をすくめる奴。
「フン!」
仕切りやがって。先輩だかなんだかシラネェがウゼェ。
「ちょっと助けた程度で恩着せやがって、オマケにこんなところまでついてきやがって。
……注文取りくらい出来るし、逃げやしねぇってのっ!」
そういいながら窯を目指す俺。ついてくる『孔雀石』。
「助けられたんですか?」
……嫌な事を聞いてくるなぁ。
「……」
首を縦に振ってみせる。不本意だが事実だ。
ニコリと微笑む『孔雀石』。???
「ふふ。運命の出逢いですか。素敵ですね」「がぶっ??!」
ゲホゲホと咳き込む俺にトドメを刺す『孔雀石』。
「物心ついたときから『藍銅鉱』とは遊んでいましたから、そういうのは憧れますね」
「……あの」
なんでそうなる。
「え。チーアさんって女性じゃないんですか?」
……一言もそんなこと言ってないぞ?!!
「解りますよ。エルフというのは五感が鋭いんです。覚えておくと良いですよ」
……そういえば、俺も人より五感が鋭いって言われているな。
半分だけエルフよりはエルフの方が優れているだろうな。多分。
「厄介だなぁ。黙っておいてくださいよ?」
マジで、このひとにはおどろかされっぱなし。
「くす。……はいはい」
「タダでさえ、黒髪黒目の半妖精は珍しいだの。
……必ず眉目秀麗だの言われて人攫いに狙われたり、
迷信深い奴らに石投げられたり、魔力を得られるとかいって食われかけたり、
犯すと幸運がつくだの言われてエライ目にあってるんですから」
沈黙する『孔雀石』口をへの形にする俺。
「……それはちょっと人間不信になりますね」
いや。ホント。
「オマケに親父は常識が通じないしな。素直に育てってのが無理なのさ」
そううそぶいて彼女の前に駆け出す。別に表情を読まれたくないわけではないが。
「反抗期ですね」
「ぶっ?!」
す、鋭いっ???!!
「『藍銅鉱』~!」
『孔雀石』さんが手をふると遠くの『藍銅鉱』が手を振り返す。
「お嬢、もう弁当はいいよ。ガキの頃ならさておきさ。恥ずかしいし、お嬢は結婚前だろ」
『孔雀石』さんの長く尖った耳がピンと立った。
「……な ん で す っ て ?」
「……頂きます」うむ。確実に尻に敷かれる。いいことだ。
というか、機嫌治したのかよ。と『藍銅鉱』は髭の奥。小声で呟く。
「で、この人と結婚することにしたんすかい?」「……御飯抜きで良いかしら?」
余計なこと言わずに、飯を食うといいぞ。あと味わって食うべきだ。
作業場に転がる泥?団子に目をやる俺。……これって。
「このダンゴ、気になってたんだが、コレなんだ?」
……凄く。気になる。
「あん?秘密に決まってるだろ。秘密秘密」「……」
「お嬢?」「……」
『孔雀石』さんはニコニコ笑っている。
「お嬢??」「……」
まだニコニコ笑っている。
「お 嬢 ? ?」
「……話してくれますよね?チーアさんはお医者さんだそうです」
怖い。怖いよ。『孔雀石』さん。
「わぁったよ。……ネズミを殺す薬になるんだ。
あと、一部の病気の治療薬や美容液の原料になる」……。
まさか。兄貴が言ってた。絶対顔に塗るなとか言ってた。
「……それ、寄越せ」
俺は駆け出すとダンゴの一つを手に取った。
「おい?よそ者には渡せないぜ?!」
とっさに弁当を投げ出す『藍銅鉱』。あっ? おまえ??! 知らんぞっ??!
「……渡しなさい。『藍銅鉱』」
『孔雀石』さんは笑っているが同時に睨みつけている。
ダンゴを手に、奪い合いの姿勢のままで固まる俺たち。
マジ。こええ。
「お嬢。顔と態度が一致して無いぜ……」
「私は穏やかにことを運びたいだけですが?」
うん。怖い。マジ怖い。味方でよかった。
手で捏ねてあるダンゴはかなり重い。鉱山から出た物質らしいが。
「コレを捏ねて窯で焼くんだ。すると薬が出来る」……『薬』ねぇ。
「"出でよ。水の乙女。その手のひらで穢れをけしされ"」
自然と精霊の言葉を口にしていた。
「"浄水"」
……予想通り、ダンゴは崩れ去った。
「コイツは毒だ。『藍銅鉱』。今すぐ窯を閉じろ」俺は冷たく彼に言い放った。




