12 黒き癒し手
「……そういうことだったのですか」
俺達三人の簡潔な報告を聞き、高司祭さまがため息をつく。
「本当に、本当に事件に巻き込まれますね」すんませんでしたっ!!!
「怪我人はなんとか」あの娘の火傷も跡形も無く完治した。女神の加護である。
問題は約一名だ。
「黒こげですけど」言いたいことは解ります。高司祭さま。
「「「まだ生きています」」」俺達三人も呆れている。
頑張って搬送したが、
本当に何で生きているんだろうという火傷だ。
アンジェがグローガンにボロ布をかける。
肩をすくめる高司祭さま。彼女が手を翳すと、グローガンに光が降り注ぐ。
高司祭さまのこういう表情はマリアやアンジェや他の神官達には見せたことがないので二人ともあっけにとられている。
光が集い、真っ黒焦げの塊を黒焦げの男へ。黒焦げの男は禿頭の人間へと。癒しの奇跡は神も邪神も変わらない。
その男の瞳が。開いた。
「「「グローガンさんっ!!! 」」」手下どもが駆け寄る。
「やれやれだよ」その様子にアンジェラ婆さんがため息。
「あれ? 母ちゃん? 」
グローガンが目を開ける。瞼や眼球さえ消し炭になっていたのだが。
「ふふふ。大丈夫ですか? 」
高司祭さまに微笑まれ、グローガンは柄にも無く顔を赤らめる。
「ひょっとして女神さまですかい? あの、俺、天国いくような間違いしましたっけ? 」
「あら、嬉しいですわ」高司祭さまが微笑むとグローガンは茹蛸みたいな顔をする。
何か勘違いしているようだが無理は無い。俺も死んだと思ったし。
「アホかっ!! 」アンジェラ婆さんがグローガンの頭を叩く。
「かあちゃん!! かあちゃんまで焼け死んだのかっ!! 」「ド阿呆!!! あたしが死ぬかっ!! 」
バカなやり取りをする親子を尻目に、高司祭さま。
「火が予想以上に燃え広がって、街を焼くところだったそうですね」
「すみません。俺らがついていながら」じろりと睨む長身の美女に頭を下げるグローガン達。
「ふふふ。でも死者は出なかったみたいですよ?? 」あれだけ燃えてか??! 凄いな!
なんでも住民の退去にグローガン達は心を配ったらしい。
目を離した隙に小さな子供が火を放たれた家に戻ったのが誤算だったとのこと。
「当面の奉仕活動を命じます」高司祭さまは微笑む。
「ありがたいお言葉。痛み入ります」グローガンと手下どもは頭を下げた。
役所も正義神殿も失態を摑まれているし、しばらくはおとなしくしているだろう。




