11 守護印
「こいつは酷い」
あたしの喉から声が漏れた。声が少し震えていたかもしれない。
バドの癒しの力を受けて、なおこの状態。生きているほうがおかしい。
人間は極度の熱に晒されると皮膚の内部から焼けていく。それは炎から脱出してもしばらく身体を焼くのだ。
「魔法の加護も無く、貴様を助けるために突っ込んだのだ」バドが言う。なんてこった。
「情けないが、私は倒壊した家屋に押しつぶされるところだった」この男が助けてくれたとのこと。
「グローガンさん……」「ばかっ! グローガンさんが死ぬかっ! 」「でも、でもぅ!! 」
逃げ出そうとする役人たちの首根っこを捕まえ、
「馬鹿野郎! 手前らが逃げてどうする! 」とグローガンは叫んだそうだ。
そして、獲物を手に、「家を全部ぶっ壊せ! そうすれば火は止まる! 」といって手下を鼓舞したそうだ。
そして駆けつけてきた『五竜亭』の冒険者達、役人全員、住民達と共に火を止めたらしい。
「もし、この男がいなかったら、この男の手下達が奮起しなければ、王都は火に包まれていただろう」とバド。
「私が悪いの」
アンジェがしゅんとしている。
「あんたらが火つけたせいじゃないのっ!
チーアが死んだらお前らの金玉と内臓取り出して食わせてやる! って言っちゃったの」
おい。
そのアンジェに対して大した娘だよと部下の一人が言って笑い。
おい。俺の親友の肩。勝手に抱いてるんじゃネェ。
「てめえら! 後は任せた! 逃げんなよ!! 」
そういってグローガンは俺に続いたそうだ。なんて無謀なことを。
キラリ。銀の輝きに戸惑う俺。
ん?? グローガンの手に何か握られているぞ。これは。
母さんの短剣??
「見よう見まねで炎の守護印を彫っている」
ロー・アースが言う。効果は薄いが無いってワケではない。
つまり。炎で死ぬことはほとんどないわけで。
「ありがとう。母さん」
俺はグローガンに癒しの力を注いだ。コイツを殺すわけにはいかない。




