10 お母さん 助けて
ばちばち。ごうごう。
崩れる梁を避ける。喉に熱い炎と煙が入るが、守護印の刻まれた俺は無事だ。
時々崩れる構造物を避けつつ、女の子のいる家を目指し、二階を目指す俺。
「何処だ!! 」
「母さん……。母さん……」女の子はまだ息があった。
「よく頑張ったね」
俺は意識もほとんど無い娘を抱き上げた。酷い火傷だ。可愛そうに。
「女神よ。この子を助けてください」淡い光が彼女を包む。これでこの子は大丈夫。
持ち上げようとして気がつく。力が入らない。
血が足りない。
や、やっべ。
急速に頭の中がぼやけてくる。ぽたぽたと落ちる俺の血が蒸発する香りにやっと気がついた。
血が、なくなれば守護印の効果はなくなる。炎が治まるまで俺が生きていれるかと問われれば。否。
「ごめん。お袋。兄貴。親父。……高司祭さま」
声が出たのかどうか。少し自信がない。
あとアンジェ。ファルコとロー。マリア。
「俺にしっかり抱きついておいてくれ」そうすれば炎は防げるから。
くそったれ。こんなマヌケな死に方とはね。本当にザマァネェ。
「大丈夫っすか? チーアさん」ん……?
「こんなところで死ぬつもりか? 慈愛の女神の使途よ」
あれ? なんでこいつらの声が?
俺はおそるおそる目を開けると。アンジェとファルコが抱きついてきた。
「ほんと。無茶するお嬢ちゃんだねぇ」
アンジェラ婆さんがため息をついた。
アーリィさんやアキやエイドさんたちもいる。
焼け跡に俺はコロリと転がり、皆に抱きしめられていた。
黒く燃えた梁や漆喰が壊れて砕けた石壁。いまだ喉を焼く燃え残りの煙。
「老骨だし、追いつくのに苦労したよ」あれれ?
「本当に、本当に心配かけて。殴ってやろうかしら? 」怖い。怖いよマリア!
ファルコとアンジェと婆さん。マリアたちがいるってことは。
「お~焼き豚になりそこねたか」ロー・アースの声。
「俺、生きてる???!! 」
なんで??? 気がついたら炎も完全に治まっている。
「だよ! 」「そう! 」「其のとおり! 」「ははは!! 」
エイドさんやグローガンの部下や役人どもや店の冒険者達までいる。
「慈愛の女神の使途が二人もいるのに、死ぬわけないじゃん! 」アンジェが涙を流して笑う。
いや、それは生きていてだろ。流石に二人とも出血多量で死んだ奴の灰まで蘇生できない。
「……」
アンジェが悲しそうな顔をする。どうした???
そういえばグローガンは??? というか。なんでグローガンの手下は泣いているの?
「グローガンは???!!!!!!! 」俺の叫びに。
「息子は……」「グローガンさん!!! 」手下達は泣き崩れた。




