9 炎よ。汝は我の友なり
遠くからでも解ったのは何かが燃えていく臭いだ。そしてバチバチと言う焼け、弾ける音。
肌を突く熱さに喉を焼く煙の味。
「母さん! 母さん! どこ!? 」「俺達の家が! 」「父さん! 」
酷い騒ぎだ。どうも予定以上に火の手が上がってしまったらしい。
「どういうことだ??! 」俺達は呆然と立っている役人どもに詰め寄る。
「風が!! このままではスラム以外も燃える! 」おい! しっかりしろ! 腐れ役人ども!
「かあさん! かあさん! 」子供の声。見ると窓から叫ぶ子供がいる。
「アンリ!! 」母親らしい娘が駆け寄ろうとするが役人達に止められる。
「もう助からない! あの火に突っ込めば死ぬぞ!!! 」「アンリ!! アンリ!! 」
「なんてこったい」
グローガン達が呆然としている。
「逃げましょう。グローガンさん」無責任すぎる。が。正直、俺達も危ない。
アンジェとマリアを含めた俺達5人は必死で水をかけたり、魔法を使っているが効果は薄い。
炎の舌が廃屋の梁を焼き、黒い煙となって俺達の喉を焼く。
「やばい!女の子が!! 」「ここで手をこまねいてみてるしかないのか?! 」
煙は恐ろしい。喉を。肺を焼く。そして毒がある。少女には危ない。
「ロー。ファルコ。あとは頼んだ! 」
俺は母親の残した銀の短剣を取り出し、自らの腕に切りつける。
噴き出す血潮と激痛に頭がおかしくなりそうだが、なんとか炎の守護印を刻みつけた。
本来なら刺青にするのだがこちらのほうが効果が高い。
「チーアさん! 駄目です! 」
グローガンが止めようとするのを振り払う。
炎の守護印のおかげで火傷はしない。血が無くならない限りは。
「炎よ! 我は汝の友なり!!! 」
轟音渦巻く炎の中に俺は突っ込んだ。




