8 正義ってなんですか
「いいですね。あのアンジェラさんに稽古つけてもらえるなんて」マリアが羨ましそうに言う。
「えっへん! 」アンジェは楽しそうに無い胸を張った。俺より無い。
再び『五竜亭』。俺たちは婆さんと一緒にメシを食っている。
あ、このご飯美味い。久しぶりに残飯の作り直しじゃない食い物を食った。
香りつけの香草は古い乾燥させたものだが、それでも無いよりあったほうがいい。
「あの婆さんがアンジェラか」「本当か? 」「でもロー・アースたちが手も足も出なかったぞ? 」
他の冒険者達が遠巻きに見ている中、アンジェラ婆さんはくそばかでかいジョッキを空にして。
「おら、エイドの餓鬼。さっさとおかわり持って来い」と呟いた。
子供のように萎縮したエイドさんがおかわりを注ぐ。ちょっと可愛いかも知れない。
「流石に体中が痛いよ。やっぱ歳だね」と婆さんが笑っている。
彼女のジョッキには老人が飲むとは思えないドワーフ火酒がなみなみと入っている。
俺も投げられまくって全身が痛いんだが。婆さんハッスルしすぎだろう。
「この方が伝説のアンジェラさんだなんて……ねぇ? 」アキが楽しそうに笑っている。
「なんかうちの馬鹿息子がセクハラしたそうで」とアンジェラ婆さんが頭を下げる。
「いえいえ。おかげでファルちゃんやチーアちゃんと出会えたし」とアキは懐かしそうに返事する。
そのファルコだが、俺の頭に抱きついて噛み付いている。何をしている。やめろ。
「うちの主人がご迷惑かけたそうで」と、女将のアーリィさんが追加のご馳走を持ってきた。
「まったく、こんな美人の娘に手をだすとはねぇ。……全部、このエロガキのおごりだから」
楽しそうなアンジェラ婆さんに「勘弁してください」とエイドさんが泣きそうな顔で言った。
しっかしよく飲み食いする婆だ。おかげさまで腹いっぱい食えるが。
かしゃん。かしゃん。プレートメイルの音。
俺達のテーブルに甲冑姿の騎士が近づくと、婆さんに一礼した。
「以前は大変失礼しました。アンジェラさん」
バドだ。
「あんときの騎士様か。きにしないきにしない。
あたしだってウンコかけようとしたし! 」おい。食事中。
「あのまま斬りかかっていたらあんたの命は無かったと思うけどね」……怖い。
「本来は一般人に教えてはいけないのですが」バドは逡巡した様子を見せる。
「なんだい? 」「その前に。正義とはなんでしょう? 」いきなりなんだ。バドの奴。
「みんな正義だよ? どこの阿呆が自分から悪っていうかね? そういうのは自分に酔っているだけさ。
一番厄介な正義は自分に酔っている正義と、保身しか考えない正義だけどね」
そうなると正義のために情け容赦なく人を殺すようになる。と婆さん。
バドはためらった様子をみせると小さく呟いた。
「区画整理が行われています。私も参加する予定です」「そうか。がんばれ」
失礼します。とバドは頭を下げて退出した。
「いかなきゃ」アンジェが呟く。マリアも頷いた。




