6 二人の『天使』
「おう。糞餓鬼! 元気にしてたかい? 」
のんびりと答える老婆は楽しそうだった。
「まさかアンジェラさんの息子さんがグローガン……さんだったなんて」
エイドさんが苦笑する。「さん」と無理やりつけるところあたり、婆さんとの関係が伺える。
エイドさんは海鮮料理(にしたって膨大な量だ)をドン! と置いた。
香ばしい匂いがたまらない。手をつけようとするファルコ。
苦笑したエイドさんは「アンジェラさんが食べてからなら食っていいぞ」と言う。
ぴたっと動きをとめたファルコはぴしっ! と椅子の上で正座して待っているが目が泳いでいる。お前は子犬か。
「あんなに可愛い子だったのに、なんでまたこんなに不細工になっちまったんだい? 」そうなのか。
「あんなに美人でグラマーだったのに、なんで35年やそこらで婆になっちまったんですか? 」
無理言うな。エイドさん。
「天罰な」「すいません」
ギロリと睨む婆さんにエイドさんはしゅんとしている。
「先代は? 」「亡くなりました。大往生でしたよ」「そうか。死に目に遭えなかったね」
歳月を感じさせる会話だ。俺は先代のことは良く知らないが名物親父だったそうだ。
「『天使の』アンジェラ?? 」ロー・アースが思い出したように小声で呟く。
「あ。ミリオンとアップルが言ってた! 」「ほう! ミリオンかい! あんたミリオンの息子かい!? 」
「うん! 」とファルコ。にぱっと顔を輝かせた。
そうかそうかと頭をなでる婆さん。
ミリオンとアップルとはファルコの両親だ。
見た目はまったく同じように幼児の姿だが、どうやって子供を作ったのかは永遠の謎である。
「ミリオンは手癖が悪かったけど、可愛い奴だったねぇ! 」やっぱり昔から手癖悪いのか。あいつは。
「こいつはちゃんと躾けてあるから大丈夫です」「ひどいぃぃ~」ロー・アースにファルコが抗議する。
で。とロー・アース。
「「「「『アンジェラ』の息子が『コレ』? 」」」「うっさいです」グローガンはふて腐れた。
アンジェラっていうと誰もが振り返る美貌を持ちながら、
ドラゴンを一刀両断で殺しただの、王家の抗争を止めただの、
百人の山賊団を一人で笑いながら討伐しただの、
胡散臭いほど尾ひれのついた噂で語られる伝説の冒険者だ。
「ドラゴンを殺したのはミリオンだよ」とアンジェラ婆さん。ウソだろ。あの餓鬼が。
「本当なんだけどねぇ? 今日日の餓鬼どもはドラゴンを見たことないだろうけど」
アンジェラ婆さんはニコニコ笑いながらファルコに海鮮料理を切って渡す。お礼を言いながらパクパク食べるファルコ。
ドラゴンねぇ……あるにはあるけど、アイツはちょっとなぁ……。
以前俺達が助けたドラゴンが化けた少年は元気にしているんだろうか? 気弱な奴だったが。
「結婚したあともしばらく冒険してたけど、まぁこの子が産まれたし」アンジェラ婆さんは苦笑する。
「すいません。調子のってました。先代に門前払いされました」グローガンが頭を下げる。
なんでも「アンジェラの息子だ! 今日から冒険者にさせろ」と先代に言った瞬間蹴りだされたそうだ。
なんとなくわからんでもない。
「え~! おばあちゃんってアンジェラなの? 」ん???
いつのまにか勝手に料理を食っている子供……もといアンジェが問う。「そうだよ? 」婆さんが笑う。
「だってだってだって! アンジェラがチーア程度の冒険者なんかに助けられるわけないじゃん! 」うっさい!
「お嬢ちゃん。ここは君が来るような店じゃないから、ご飯食べたら帰ってね」エイドさんが苦笑する。
「私、強いよ? 」強いのは認める。「アンジェラほどでもないけど」とアンジェ。
「うちはそういう店じゃないんだが」とエイドさんが問うので、
「昔はさておき、今は慈愛の女神の使途です」と俺は答えた。
「あんた誰だい? 」婆さんが聞く。
「私もアンジェって言うの! 」アンジェが答えた。
意外な。再会はここでも。




