4 ただし紳士(ロリコン)に限る
「なぁ。アンジェ」「家族なんていない」こいつ、俺の心が読めるのか?
彼女は嘘をつくと木靴を小粋に鳴らす契約祈祷を受けている。
うそ。なのは解るが。辛い。
「マリアは? 」木靴を鳴らすアンジェの問いに。
「幼い頃に別れました。あとはこの神殿で」と答えるマリア。
でも、と続ける。「チーアさんたちのおかげで、ちょっとだけ再会できました」
おい。そんな話知らないとかなんとか言ってなかったか?
「6歳の娘を売り飛ばした親なんて……ねぇ? 」と苦笑いするアンジェ。
「あえて言えば新しいお店のお姉さん達かなぁ。文字とか勉強とか技とか教えてくれたし」
メシもロクに食べさせようとしないヒネクレ親父や、
放浪癖のある兄貴や何処にいったのかも判らんお袋とは言え、
俺は恵まれているほうなのかもしれない。
グローガンの話をするとアンジェは嫌そうな顔をした。
「ああ。グローガンねぇ……あたしの最初の客なんだよね。最悪! 」……マジか。
「ツケを踏み倒そうとしたり、こっちも初めてなのに乱暴にするし、童貞だったし! 」
童 貞 は 許 し て や れ 。
金も持ってないし、下手だし、早漏だし、無駄に何度も指名するしと続ける。
オマケに私に気がついてなかったみたいだしとの事。
「お店変わったらそういう人減ったけど、勉強勉強ですっごく大変だったなぁ」
色々あって女神さまのご加護を得て、店の皆の応援もあって借金を払いきり、神官になったそうだ。
「もっともっと稼いでもらうつもりだったのに大損だってお店のお母さんから言われちゃったけどね」
アンジェはニコリと笑った。「『年増』だから引退したほうがいいしねぇ」
十二歳や十一歳で年増扱いってどうかと思うんだ。その店。
黙り込む俺達にあわてた様にアンジェは取り繕ってくれた。
「あ! そんな気にしなくていいよ?! 」
「故郷ですかぁ。私は生まれも育ちも車輪の王国ですしね」これはマリア。
「俺は離れ小島だったかも? 」旅ばかりで正直記憶にないが。
「グローガン。お母さんに連れられてとっとと帰って欲しいかも? 」アンジェが苦笑する。
「あ、それ、俺も同意」迷惑だし。
「意外といい人ですよ? 職のない人を世話したりしているんですよ? 」マリアが意外なことを言う。
なんでも、強請りタカリなんでもありの反面、
職のない奴を仲間に加えたり、無理やりとは言え定職に斡旋したり、
モグリの犯罪者には厳しかったり、意外と情に厚かったり、
怪我や病気をした手下やその家族を医者に連れて行ったりと、
周辺のならず者達には一目置かれているそうだ。
「そうでないと、毎回チーアさんたちに怪我させられて、
20人以上も手下の人が残っていたりしないでしょう? 」
まぁそうだな。もっとも、最近はお互い素手で闘ってるので誰も大した怪我もしてないが。
そういえば、昨今は20人かかりとかしなくなってる。5人かそこらで、あとは遠巻きにみているだけだ。
「全員で武器を持って本気でかかれば手下の人たちが大怪我しますからね」
なるほど。確かにそうなると俺達も本気になってしまう。しかし詳しいな。
「誰が怪我を治してあげていると思っているのです? 」あ。
「お前か」「マリアだったの?! 」
「二人とも治癒の修行をサボりすぎなんです! 」
マリアは俺やアンジェほど癒しの力は強くない。努力の成果なのだ。
なるほどなるほど。意外といい奴だったのかも知れない。ただしロリコンっと。




