2 高司祭さま萌え(ただしいきおくれ)
「冗談なのにぃ~」アンジェが抗議の声を上げるが、俺とマリアは無視している。
グローガンたちは誘拐犯たちを袋につめて、盗賊ギルドにつれていくらしい。
それなりの報酬が入るだろう。彼らは役人に捕まったほうがマシな運命になるだろうが。
「だいじょぶ! 私がなんとかしてあげるから! 」アンジェはニッコリ微笑んだ。……手加減してやれ。
この娘の経歴はマリアも俺も気にしないことにしている。
「『怪我が治る程度にがんばる』ってギルドの偉い人達にいってあげるよ?
……ちぎって~♪ 取り出して~♪ えぐって~♪
『肉』を食べさせてあげて~♪ 治してあげて~♪ 久しぶり~♪ 」
えぐい。えぐいな。アンジェ。手加減してやれ。たのむからっ?!
「拷問は女神の意思に反します」マリアは睨み付ける。
誘拐犯達は泣きながら「殺してください」と訴えていた。
彼女の『前職』の客にはそういう変な趣味の客も少なからずいたそうだ。
うちの神様も変な奴に加護を与えるからなぁ。
……。
……。
「ふふふ。受難でしたね」ううううううう。場所と時間変わって慈愛神殿。
高司祭さまの私室に呼び出された俺はスラムであったことを洗いざらい報告する羽目になっていた。
「短い間に二度も事件に巻き込まれるなんて。二度呼び出す手間が省けました」俺のせいじゃないから!
簡素な室内は高司祭の私室にそぐわないが、うちの神殿の気風と本人の性質に所以する。
「でも大事に至らず」さすがロー・アース様。と高司祭さまは微笑む。
「なんもしてないし。アイツ」俺はぼやく。つか、趣味悪いよ。高司祭さま。
「そうでしょうか? 結構大事にしてくださっていると思いますが」ないない。
「ふむ。私にもチャンスがありますね」何故か小さくガッツポーズを取る高司祭さま。
もう少し、しっかりしていて性格とか世間体のいい男がいるでしょうが。
たとえば、兄貴とか。高司祭さまはため息をついた。
「チーア。あなたの兄上さまはどこにいらっしゃるのでしょうか? 」「しってりゃ冒険者やってません」
「満場一致で空席だった最高司祭に就任したかと思ったら『旅に出たくなった。後はよろしく』ですよ? 」
あの兄貴だからなぁ。女所帯じゃ選挙したら一発でそうなるのもわからないではない。無駄にモテるし。
「ふむ。そうなると私はチーアのお姉さんですね」ふふふ。と不吉な笑みを浮かべる高司祭さま。
「あ、その、例として提示しただけなので、高司祭さまなら余裕で逆玉いけますよ? 」こういう姉貴は真面目に困る。
「二十一歳ですけど」若い若いいけますいけます。兄貴と同い年。
「行き遅れですけど? 」いけますいけます!
「失恋ばっかりですけど???!! 」いけるいける!!
「背が男の方より高いとか、マリアさんほどじゃないですけど怪力とか言われてますけど????!! 」
泣かないで下さい。手脚其の分長いし、細く見えるし、実際細いし!
4キロの鉛の丸を片手で20m投げ飛ばすとか許容範囲だから!
笑いながら岩投げるとか木引き抜くマリアがおかしいんですから!
はぁ。とため息をついて高司祭さまはぼやく。「チーアのお兄様といいローさんといい」
私も冒険者になっちゃおうかなぁとぼやくので全力で辞めてくださいと反論した。
「うーん? 私、剣も治癒も格闘術も得意ですよ? 医術も料理も得意ですし、今すぐにでも」辞めなさい。
「ファルちゃんも可愛いし、ローさんのそばにいることも出来るし」いい加減にしてください。
「誰が高司祭やるんですかっ! 」「目の前に! 」おい!
「治癒の力、女神さまのご寵愛、兄上の実績で充分です! 」絶対嫌です!
「だいたい、みんなして適当すぎるんです!
留守を任されるほうの身にもなってほしいです! 」……気持ちはわからんでもない。
「文字が読めないとか、祝詞が読めないとか、
教義なんて知らないとか、回りの皆さんがしっかりしてれば問題ありませんよ? 」そうなのか?
「だから、今すぐにでも交代しましょう。そうしましょう」辞めなさい。
「WinWinじゃないですか! 」俺がLoseLoseじゃないですか!??
実はこういう性格だって、みんな知らないんだよなぁ……。頭が痛い。
「と、いうか、仕事してください」俺は真面目に抗議した。
「……わかりました」叱られた子犬のようにしゅんとして机に向かう彼女を残し、「失礼しました」といって逃げる俺。
待ちなさい! と聞こえたが、逃げ足には自信がある。こんどは逃げ切った。




