後編 プロローグ グローガン一家。颯爽と登場
袋の中で暴れる俺に誘拐犯と思しき人々の声が聴こえてくる。
「む~。慈愛神殿の関係者っぽいなぁ」誘拐犯がボケたことをほざいている。
「あにきぃ。あんまり言いたくないんだけど、もうちょっと相手見てやってくれよ」
「いや、黒髪の半妖精は10倍で売れるんだぜ?見たら即さらったほうが」
「だからってあそこの神殿に逆らったら俺らメシくえねぇし。
てか言葉遣い悪すぎるだろ。コイツ。男さらってどうするんだよ」
「いやいや。男でも充分売れるって!」「兄貴ぃ~マジしっかりしてくれよ」
「やっちまって殺すか? 」「兄貴。黒髪黒目の半妖精を犯すと呪いかかるよ? 」「呪いは困るな……」
黒髪黒目の半妖精は必ず魔力をもって産まれるだの、
黒髪黒目の半妖精は神の化身だの悪魔の使いだの、
必ず眉目秀麗というデマを広めた奴は死んで欲しい。てか死ねッ!
……袋の中でもがく俺を無視して誘拐犯どもはアホなやり取りをやっていた。
「てめえらっ!そこまでだっ!!! 」……ん??? 大勢の人々が殴りあう音と怒声。
袋が開けられ、俺はなんとか顔を出すことができたが。
「無事でしたか? お嬢さん? 」
禿頭がカッコよく気取る顔は凄く間抜けだ。
「なにやってるんだよ。グローガン」「……」
禿の大男は黙って袋の口を絞めて、俺を抱えて歩き出す。
「まてっ! まてっ! 川に投げようとすんな! 呪うぞっ!!! 」
袋のまま暴れる俺に耐えかねてか、ドスンと投げられ、俺は咳き込む。
「なにやってるんすか。チーアさん」俺だって好きで攫われたワケではない。
「アレですか。モグリの誘拐犯を捕まえようとあえて内部から」違う。絶対違う。そうおもったが黙っている。
「チーア!!! 」「チーアさん! 」アンジェとマリアの声。
アンジェはグローガンを見ると表情が一瞬変わったが、即座に俺のほうに駆け寄ってくる。
「ちいや! 」
「おー。ボンレスハムになってたか」
ファルコはさておき、悪いジョークを飛ばす無気力男は死んで欲しい。
グローガン一味は手際よく誘拐犯二名を制圧した。
「お前、なにやってるんだ? 」首だけだして俺がグローガンに問う。
グローガンは不思議そうに「盗賊ギルドが探しているモグリの誘拐犯を捕まえようとしてたのでは? 」
ロー・アースとファルコが首を振る。アンジェとマリアも。
「あ~。余計なことしちまったか」グローガンが苦笑いした。
「いや、シマ荒らしする馬鹿がいるみたいだから、みんなで張ってたんですよ」そういって笑った。
「おかげで捗りました」このヤクザ者はこういう表情もできたのか。少し見直した。
でも、いい加減袋から出してくれ。アンジェの潤んだ目線が怖いんだ。
「かーちゃん! どうよ? 」グローガンが嬉しそうに叫ぶ。……かーちゃん?
「まだまだだねぇ。でもよくやったよ?」老婆の声が聴こえる。……聞き覚えある声だ。
「またあったねぇ。神官様」微笑む老婆はスラムで暴れていた老婆だった。
「かーちゃんを助けてくれたし、手打ちでいいよな? 」グローガンは楽しそうにそうのたまった。




