6 俺と謎の婆さん
「オラオラ! ちゃんと並びやがれ!! 」
俺の叫びを聞いたのか、即座に隣の神官が俺の足を踏んづけた。
「マリア! なにしやがる?! 」
にこやかな笑みを浮かべながら彼女は「なんのことですか? 」と答えた。
恋愛結婚を推奨している関係で若い美女ばかりと有名なうちの神殿。
収入源はゴミだの残飯だのの処理(若い娘がやる仕事か? )、食料での納税の代行。
そんな慈愛の女神神殿は炊き出しでも有名だ。
残飯が主な食材だが、正義神殿や知識神殿など抽選制でもなければ、
幸運神殿みたいに金をとるわけでもないため、食材は最悪だが、一番参加者が多い。
例外は戦神神殿で、闘った後の飯が一番美味いという理屈で殴り合いで参加者が決定する。
流石に暴力で解決は炊き出しの意義がなく、問題がありすぎるので、
昨今は芸を見せあって列順を決めているそうだ。
芸が終わる頃にはすっかり料理も冷めていて、やっぱり意味がないので参加者は少ない。
とにかく、うんざりするほどの人間が汚い器をもって並ぶ姿を見ると冬だと思う。
「あ! 」俺を指差して騒ぐ炊き出しの参加者がいた。誰だろう。
ん。……目が合う。見覚えがあるぞ。「あ、あのときの婆さん」
「神官様。おかげで助かりました」「ははは。命は大事にしろよ。せっかく長生きできてるんだし」
石を投げたり、糞尿を投げたりして斬られかけるとか、世話が焼ける婆さんだ。
「ほら、多めにいれておいたよ。こっちこそ力になれなくてごめんよ」
頭を何度も下げて去っていく彼女に俺は手を振る。まだまだ仕事は残っている。
「おなかすいたね! 」ファルコがよってくる。
「終わったぞ~」ロー・アースもやってくる。
神殿関係者とそのボランティアは炊き出しの後に食事だ。
「母なる女神よ……」皆が祈りを捧げる中、
ファルコがシチューに手をつけようとして煩型の神官にはたかれている。
「うん。美味しいです」「女神様。日々の恵みを有難うございます」
今日のシチューは自信作である。いいバターが手に入ったし野菜くずも丁寧に洗った。
さっきファルコをはたいた煩型の神官。神官長と呼ばれるカレンが自分の分のシチューをこっそりファルコの器に入れている。
ちゃんとお礼をいってから食べるファルコ。可愛がられている。
他の神殿なら黙って食べろと言われるところだが、この神殿の女どもはあんまり気にしていない。
正直女の喋りは聞いてられないので聞き流していたが。
「……ア! 」「チーアったら!! 」
……うっさいなぁ。「なんだよ。アンジェ? 」
色々あったが。俺とアンジェは『親友』として再出発した。
本当に。本当に。色々あったけど。今では大切な友人同士。だと思いたい。
胸の奥のトゲは。お互いいまだ取れないけれど。それでも俺たちは一緒にやっていく。




