5 高司祭さま。再び
慈愛の女神の神殿。本日は炊き出しの日だったが、
抜き打ちの区画整理に抗議するためにエライ人たちは大慌てである。
俺達も炊き出しの手伝いに参加して分け前にあやかるつもりだったので大迷惑だ。
「チーア」突如後ろから声をかけられた。俺は聴こえなかったふりをして逃げにかかる。
「チーア。待ちなさい」「待ちなさい。チーア」周囲の神官達にも止められて俺は嫌々振り返る。
足元までのつやつやの黒髪にほっそりとした長身。
胸元が大きく開いた白いローブに身を纏った20歳そこそこの美女。
動きやすいようにローブに入ったスリット部分からは脚が長すぎて膝が見えている。
この神殿の高司祭さまだ。つまり、一番エライ。おつきの神官たちも美女ばかり。いい趣味である。
「区画整理に当神殿関係者と思しき黒髪の半妖精と人間の青年、
小さな妖精が仲裁に割り込んだと聞いていますが」
そんな特徴的な奴、この神殿関係者には一人しかいない。つまり俺だ。
「いつもみたいに止めに入って騒ぎを大きくしたくなかったので」俺は弁明する。
ちなみに、うちの神殿関係者は穏やかに見えて過激なネーちゃんばかりで、
俺じゃないが、区画整理に抗議して斬られた人も少なからずいる。
「ふふふ。確かにそうですね」
どうもこのネーちゃんは苦手だ。何を考えているのか判らん。
雰囲気がお袋ににているので尚更だったりする。
「あ。高司祭さまだ~!」てけけ。子供独特の動きでふらついたように走り、
膝まであるサンダルに抱きつくファルコ。
以前、彼女に致命傷を癒して頂いた事もあって彼はすっかり懐いている。
「こらっ! 」「やめなさい! 」と小さい声で叱責するおつきの神官をよそに、
高司祭さまはファルコの頭をなでて可愛がっている。
「高司祭さま。そろそろ」「はい」ファルコは高司祭さまに手を振って離れた。
これから役場に抗議に向かうのだろう。お疲れ様である。
「ロー・アースさん」高司祭さまじきじきのお言葉だが、彼の瞳は相変わらず死んだ魚のようだ。
「チーアを助けていただき、有難うございました」……高司祭さま。頬が赤いです。
あんなんの何処がいいんだろう? なんでもロー・アースは高司祭さまからみて恩人らしい。
すれ違い際に、高司祭さまが小声で釘を刺す。
「あとで、たっぷり事情を聞きますので、覚悟していなさい」「……」
「逃げるとタダではすみませんよ」にこやかに言わないでください。マジで。
俺は内心涙を流しながら、彼女を見送るのだった。




