3 悪い人などいない
お上とグローガンの暴挙だが、一応筋が通っているので干渉するわけにはいかず、
遠巻きに眺めている俺達だったが、いつの間にやらファルコがいない。
「あのね! なのね! トイレつけて、お風呂はいって、
道路に糞壷の中身を撒かないようにするとだいじょぶなのなの! 」
ぴょんぴょん右に左に跳ねつつ、両手をぶんぶんやってお上にアピールするファルコ。
……!! あああああ。やっちゃった……。
「ふぁ、ファルコ……さん? 」なぜか敬語のグローガン一味と衛視たち。
まぁ昔の俺達ならさておき、彼らが総出でもファルコは捉えられないだろうけど。
「トイレと風呂が伝染病となんか関係あるんでせうか? 」
ファルコに対して律儀に腰を落とし、ヤクザ者の棟梁は質問をした。
「風呂なんてこの1年はいってねぇなぁ」「俺も」
「ウンコなんて街中にノグソだしな」「俺も」
掃除手伝え。馬鹿。
グローガンたちゴロツキどもが腰を落としてファルコに聞く姿はめっさ滑稽だ。
「あ~。その、知り合いの変態、もといスラムの医者が言うには、関係あるらしいぜ」
俺はファルコを抱き上げると、「さっさと行くぞ」と言って退去しようとする。
慈愛の神殿の人間らしからぬ行動だが、致し方ない。
「みゅ~! もきゅ~! 」と謎の声をあげて手をばたつかせるファルコを抱きかかえる。
明らかにほっとした様子のグローガン一味と状況が理解できていない衛視達。
グローガン一味が束になっても昔のロー・アース一人に勝てなかったし、
今のロー・アースに喧嘩を売るのは物凄く愚策なのは彼らが身を持って知っている。
地主らしい男達やグローガン達、
役人どもや正義神殿の神官や騎士達が泣き叫ぶ住民を追い出しにかかる。
「ちいや」「しかたないよ。空いてたとはいえ地主さんの家だったんだろうし」
そりゃ、しばらく家を空けていたとはいえ、
庭や家の中に家やらなんやら建ってて家財一切合財盗られていて、
さらに知らない人達が住んでいたら、キレてごろつきの一人二人雇うだろう。
とはいえ、泣き叫ぶ人々をあえて遠巻きにみているのはなんとも罪深く感じるのも事実だ。
「みんな、自分が悪いなんて思ってないし、
悪いことしているって思っていたら生きていけないんだよ」
俺はファルコを抱きかかえながら、そう呟くしかなかった。




