10 待ちなさい。アスラ
「だぁ。だぁ」アスラは相変わらずご機嫌ですね。
「あすら~~~~! もどってこーい!! 」
ロー・アースが叫びます。私は大きな布を広げ、馬の寝藁を敷いて布をかけます。
「あすら君。こっちなのの」
ええ。油断していました。まさか魔導士ギルドの塔を素手で昇る愚か者がファルコ以外にいるとは思いませんでしたから。
「ファルコ。もっと右だ右っ?! 」「ファルちゃん。がんばってっ?! 」
大騒ぎですよね。はぁ。
「みゅ?! 」
強風に煽られ、ファルコの身体が宙に舞います。
ああ。猿も気から落ちるようにファルコも塔から落ちるですねぇ。
ってそういう問題じゃありませんっ?! ロー・アースッ?!
『落下速度制御』ふう。間一髪。
ゆっくりと落ちるファルコは大はしゃぎしていますが。アスラはぐんぐん塔を昇っていきます。
時々アスラが掴んだ塔の彫刻の成れの果てが落ちてきて悲惨なことに。
「……」「……」「……」
私達の目の前で大きな鳥がアスラを咥えて飛び立っていきました。ありえません。
「アスラ君ッ! もどってきて~~! 」
グローガンさんたちが右に左にの大騒ぎをしていますが、自業自得です。
私もシンバットを呼び出してアスラを追います。
「アスラッ?! 『動物召喚』を使ったわねッ?! 」
この子も神族の端くれです。予想しておくべきでした。
空を飛びながら彼はご機嫌です。私に満面の笑みを浮かべております。
「アスラたんっ?! うぷっ?! 」
あ、おしっこ。一面に金色の輝きが。って冗談じゃありません。
「『浄水の防護幕』」本当に、本当に皆さんに迷惑をかけて。
「もうっ?! 許しませんよッ?! 」
私が怒りの声をあげると、アスラは遠くに飛び立っていこうとします。
「『捕縛』」
ロー・アースの抗飛術が決まり、空中停止する大鳥。
アスラはそのままぴょんと。飛びました。
いえ、赤ん坊が腕だけで飛ぶとか。ありえませんけどアスラですから。
「だぁ。だあ♪ 」ご機嫌で家々の屋根をハイハイする彼を私達三人とグローガン一家の皆さんは追います。
「今月で何回目だよっ?! 」「七回めくらいかしら? 」「チーアさんッ!? 数えている場合じゃないですよっ?! 」
「あすら君。こっちなのの」「ファルコ~~~~~~~~~??! 」
抱きしめてもらおうと走ってきたアスラに吹き飛ばされたと思しきファルコの小さな身体が屋根の上から青空の下に飛んでいきました。
皆さん。結構、楽しそうにされているのは。気のせいでしょうか。
私? そうですね。迷惑ですけど。楽しいですよ。ええ。
あ。そうそう。色々あってやっと元の姿に戻してもらえたのを一応御報告した上で今回のお話を終わりたいのですが。え? 続きは無いのかですって?
困りましたね。あまり面白いお話ではないので、又明日にしたいと思います。




