7 アンジェ売ります。麦袋二つ
「確かに、この子を買う前に、幼い娘を手放したことがあります。名前も同じくアンジェといいます」
泣き崩れ、懺悔する二人に私は何をいえばいいのかわからない。
私の親友。アンジェは実の両親に麦袋二つで安宿に売られ、奴隷同然に客の相手をしていたところをたまたま通りかかった変態専門の娼館の女性に拾われ、禿として勤め上げた後に。
莫大な借金を負ったはずだが、今は自由の身となり、下級神官をやっている。
当時のことはほとんど彼女は語らないが、両親にもう一度あったら殺してやりたいと言っていた。紛れも無い本心であろう。
「あんじぇ? 」「アンジェだと」
二人もまた、私たちの友人の顔にこの二人の顔が酷似していることに気がついたようです。
この老夫婦二人は農奴です。初夜税を『払い』、猫の額のような畑を耕し、領主の畑を手入れし、賦役にもつかねばなりません。
不作が続けば子供たちを〆て、糊口をしのぐか、あるいは売りに出すことは普通。普通なのです。
悲しいかな。現実。『最初の剣士』の理想はいまだ達成されていない。のです。『神』も無力ですね。
「あんじぇ……ねぇちゃんの」「(それ以上言うな)」
顔を青くさせるファルコはやっと私の怒りに気がついたらしく、私達のサインを受けて黙りました。
「娘を、御存知なのですか」
勝手なことに。二人の表情は、喜びだった。
「あのまま〆るか、安宿に売るかの選択だったのです」
「私たちは娘がどうなろうと生きていてほしかった」赦されはしない。赦されたいとも思わない。
だが、あの美しい顔立ちの子供を絞め殺すことだけは出来なかった。彼らはそう嘆く。
「おぎゃああああああああああああああああああああああ」
泣き出したアスラをあやします。よしよし。
「でもね。あすら君は売り買いしちゃらめなのの」ファルコは眉をしかめる。
「やっと余裕が出来たのです」「何故か今年の冬は穏やかで」その冬の件は心当たりが無いわけではない。私たちはとある冬の精霊に恩を売ったことがありますから。
「で、安売りの冬のうちに子供を買いに来たと」「ええ。普通は春ですが一番安いのは冬です」
「で。前に売り飛ばした娘の名前を恥知らずにもつけようと」「ええ」
ダメ。です。堪えられません。
「アンジェ。か」
腕を振り上げようとする私はロー・アースの言葉を受けて静止しました。
彼がなにか言わなければ私は手を汚していたことでしょう。
「アンジェラ。伝説の女傭兵アンジェラかい」
その話は伺ったことがあります。女で在りながら強く、優しく。
百の山賊を打ち破り、壱千の人々を魅了し、その美しい声は戦場に響いたと。
何より、女を犯したり殺したりする事を嫌い、略奪を是と、仕事としていた傭兵団を現在の形に纏め上げた生ける伝説だと。
「私たちは、若いときに彼女に出逢った事があるのです」
「彼女は、強く、優しく、美しく。輝いていました」「その方の姿を少しでもあやかりたく」
理解できない話ではない。それほどまでに伝説に残るアンジェラは輝かしい。戦の女神の化身とも言われている。
もし男性ならば正義神殿や戦神神殿は最初の剣士の生まれ変わりと呼んだであろうことはかたるまでも無いから。
「じゃ、この子はアスラだからダメなのの」
ファルコはそう呟くとアスラを抱き上げた。「ねっ 」「ふぁ~ふぁ~♪ 」
ご機嫌なアスラをみてファルコは微笑む。
「いい加減助けてください」
人身売買商人の頭を私は思いっきり踏んで差し上げましたが。
「はいてない」
思わず。本気で何度も踏みつけたのは完全な蛇足ですね。ええ。
変な服を着せるならば下着くらいつけてください『まぼろしのもり』さん。
エルフは下着を着けないのを。忘れていました。




