4 お前だれだ
「女神殿。少し思慮と言う物をもったほうが良いぞ」
『館』の主の声は若くて綺麗な男の声。だが時々辛辣な台詞を吐く。
「あれだ。個別に俺をそこに送るとか出来ないのか」
「女神殿は相変わらず無茶ばかり言う。可能だが」
いますぐやれ。急いでるし。
「守護天使たちや妖精や龍がいなければ女神といえども大した力は無いのだぞ」意味わからん。
「やかましい。さっさと送れ。アスラが心配なんだ」「解った」
俺はこのエルフの性格が悪いのを忘れていた。忘れていなければこんな台詞は吐かなかっただろう。
「いい事を教えてやろう。女神殿。転送の魔術は一度人間を光と『情報』に転換後、指定位置に具現化させることで発現する。即ち魔術の失敗は国が吹き飛ぶほどの爆発を齎したり、転送が半端に成功すると人間以外と混じったり、『少々違う』姿かたちやあり方になることがあるのだ。それを防ぐために我ら魔導士はアカシックレコードに保存された元情報にアクセスし」
わからんっ?! もう喋るなッ?!
「ほう。興味が無いというのか。知らんぞ」「それよりアスラのほうが心配だっ?! 」
きらきらとした光が俺を包む。「まぁ。女神殿のその気性は嫌いではない。が。少々女性らしくしなければ想いが叶う事も難しいぞ。『神』ですら恋路は思うようにならんものだからな」
「ごちゃごちゃうるせぇえぇええええええっ?! 」
『あたし』の叫びをのこし、私の身体は郊外の森から消滅した。
……。
……。
「かえしてください。その子は大事な友達の子なんです」
丁寧に老夫婦に頭を下げる『私』に彼らは呟きました。
「どなたですか」「私はティア。ユースティティアと申します」
何故でしょう。自分の言動に違和感を感じますわ。
ボロボロの廃屋に等しい小屋に私の身体は転送されました。
中央にはアスラが穏やかな笑みを浮かべて眠っています。よかった。無事で。
私の頬にも微笑みが浮かぶのが。解りました。
「その子の名前はアスラ。人の手に負える子ではありません」
私がそう告げると老夫婦は戸惑いの表情を浮かべました。
「あなた」「どなたですか」
「ですから」
思わず口元を隠して咳払いをしようとして。……気づきました。
私の指には弓を引くためのあとは無く。短剣を持つためのタコも無いことに。
「ちょっと。宜しいでしょうか」「ええ」思わず狼狽する私に。
「まさか女神様がおいでになるなんて。うちの子は大きな祝福を持って生まれたんですね」
老人が感激の声をあげます。
ええと。女神様とおっしゃるのはやめてください。いまだ未熟な十四歳の小娘ですから。
そう思いつつも、右手を振り上げて水の精霊さんにお願いします。『水鏡』
「……」
予測。してはいましたが。
つややかな長い長い。腰まである黒い髪。
長く伸びた睫毛に潤んだ黒い瞳。白く、薔薇色に輝く頬。
白いトーガを身に纏い、チャクラムを兼ねる金色のブレスレットとアンクレット。白い革のサンダル。
大きく開いた胸元はすーすーとして、冬場なのにどうしてこのような格好なのでしょうか。
防寒の魔法がかかっているらしく気がつきませんでしたが。
「この方はどなたですか」震える私の声に。
「女神様ご自身だと思います」ひれ伏す老夫婦の声が重なります。
ええと。何故でしょう。私自身が発光しているのが。見えます。
何故かイルジオンさんの言葉を思い出しました。
「転送の魔術は一度人間を光と『情報』に転換後、指定位置に具現化させることで発現する。即ち魔術の失敗は国が吹き飛ぶほどの爆発を齎したり、転送が半端に成功すると人間以外と混じったり、『少々違う』姿かたちやあり方になることがある」
あ。あははは。あはははは。
これは。これは。わざとでしょうか。怒りますよ。
イルジオン様。イルジオン様。
『まぼろしのもり』さんの莫迦ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁっっ




