3 「せんせぇたいへんです」「チーアがいくえふめい(ゆくえふめい)です」
「大変っす! アスラ君が浚われました」
その言葉を聴いて凍るあたし。「あすらちゃんがっ?! 」「ですっ! 」
慌てて愛馬を呼ぶ。「シンバットッ! 」
「厩に繋いでいたはずなんだけど」
両手に器を持ったウェイトレス、アキはシンバットに跨る俺を見て眉を顰めた。
「いくぞっ! シンバットッ! 」
手綱を鞭代わりに振るい、宿から駆け出した俺は矢のように郊外の森を駆ける。
青々とした緑は冬の風の中でも失われていない。不思議な森だ。
森の中ではたと考えにいたり、シンバットに『とまって』と合図を送った。
「なぁシンバット」「……」馬が喋るわけ無いのだが。
「アスラ、シラネ」分かるわけ無い。そういうように愛馬は唸った。
あとでテーブル代と椅子代を請求されることになる俺だったが、この時点では分かるはずもなくアスラの影を求めて走る。上位巨人族夫婦は普段はこの森の奥の広場にある『イルジオンの館』を経由して俺たちに会いに来る。
「イルジオンッ 俺だッ 来てくれッ 」
莫迦みたいに広場の真ん中で叫ぶ。
周囲の草が揺らめき、徐々に家の土台の形になる。雲間から差す光がボロボロの外壁を照らし、爽やかな風が気品のある屋根の装飾を撫でていく。
俺の視線の中央に現れた扉が「キィ」と開き、何処からとも無く若い男の声が響いた。
「どうした。女神殿」
なんで女神なんだよ『まぼろしのもり』。しばくぞ。姿見たこと無いけど。
このエルフの館、世界中を蜃気楼のようにフラフラフラフラとさ迷う特徴を持つ。
その主こそがエルフ、『まぼろしのもり』ことイルジオンである。
「アスラが浚われたらしいんだ。探さないと」「ふむ」
きらきら輝く光が小さな木から伸び、像を結ぶ。
「アスラッ?! 」「無事のようだな」
穏やかな表情で寝入るアスラは誰かの腕に抱かれていた。
「とりあえず迎えに行く」「『館』では送れんぞ」そういえば森の中且つある程度の広場もいるらしいな。
「で。何処」「女神殿。少し思慮と言う物をもったほうが良いぞ」
うっさい。おまえみたいに500年だか1000年だか生きていないんだ。




