11 業火
「カエセッ! カエセッ! 」『私』は叫んだ。
「"私"の身体を返してッ "私"の綺麗な身体をッ 心をッ」
捕らえた娘の体は炎を呼び出す力を持っていた。
「チーア。落ち着け」「チーアッ?! 」
忌々しい魔導士の力を持つ剣士と、幸運を呼ぶ妖精が"私"に立ちはだかる。
赤い服の娘が叫ぶ。「チーア。しっかりしなさいっ?! 」
「感受性の強い子供は取り憑かれることが多い」そういって剣士が二本の剣を持つ。
面白い。やってみろ。この娘は死ぬぞ。
胸元を小さくさらけ出してみせる。
「どうした? 剣士ッ 」こないなら、こちらから行くぞ。
業火を呼び出し、疾風を走らせる。
土くれが赤い服の娘を捕らえ、水と氷の刃が妖精に向かう。
「何で普段弱いのに敵に回ったら強いんだよッ?! 」
一瞬、腹が立ったのは恐らくこの身体の持ち主の強い意志だろう。
「ちゃんと炎使えてるののの」
ちょこまかと動く幸運と悪運の妖精は易々と"私"の攻撃をかわし続ける。
「やめろ。レイハッ! 」……ぼっちゃん。"私"も。あなたが好きだった。
「ぼっちゃん。あんた幽霊が『憑依した相手の魔法能力を使える』事を知ってたかしら」「ああ」
赤い服を着た娘の言葉に頷くあの人。
穢れた"私"に身体を貸してくれた。だいじなひと。
もっと、もっと早く、あなたと一緒になれたらよかったのに。
"私"は彼の力で綺麗な"私"になって。二人で屋敷を駆け回った。楽しかった。楽しかった。
「ぼっちゃん」「レイハ。名前で呼べ」
ふふ。私。やっぱりあなたと同じにはなれないみたい。
全てが。憎いの。憎いの。愛している貴方も。あの男の息子であるから。愛している故に。憎い。
『絵』に力を入れる。
バキバキと音を立てて、私の『自画像』が実体化する。
最後の作品は。私が描きあげた。綺麗な身体。貴方の為に書いた。身体。
「私。綺麗だったかしら」「ああ」
ごめんなさい。今の私、醜い魔物だから。
「さようなら」
私の『身体』は油をたっぷり含んだ絵の具。
私は『彼女』の発火能力を使って、私の『最後の作品』に火をつける。
『メメント・モーリ』
死を忘れて。いたわけではない。
死ぬ前に。言いたいことがあったのに。
「ホントは。好きだったの」「ああ」
メラメラと燃える私の視界に、涙を浮かべている黒髪の少女の姿が見えた。
「俺は、お前だけいればよかったんだ」
彼はそういってくれた。その言葉。その態度。ホント、憎らしい。
今更そんなことに気がついたのね。ばかね。本当に。ばか。




