4 『孔雀石』
孔雀石(くじゃくせき、malachite、マラカイト)は緑色の単斜晶系の鉱物で、もっとも一般的な銅の二次鉱物である。
孔雀石の名は微結晶の集合体の縞模様が孔雀の羽の模様に似ていることに由来する。英語起源のマラカイトなど欧語表記はギリシア語(アオイ科の植物の名称)に由来する。
孔雀石は紀元前2000年ごろのエジプトですでに宝石として利用されていた。当時のエジプト人はラピスラズリ(青)や紅玉髄(赤)などと組合せ、特定のシンボルを表す装身具に用いられた。現在でも、美しい塊は研磨して貴石として扱われ、アクセサリーなどの宝飾にも用いられるが、モース硬度3.5-4と柔らかい鉱物であることから、硬度7以上を定義とする宝石には合致しない。
銅鉱石として利用されたこともあるが、現在では高品位の銅鉱石と競争できないため、ほとんど使われていない。
孔雀石の粉末は、顔料(岩絵具)として古来から使用されている。この顔料は「岩緑青」、「マウンテングリーン」などと呼ばれる。青丹はその古名。
銅の炎色反応を利用した花火の発色剤としても重用される。
石言葉は「危険な愛情」。
(ウィキペディアより)
半妖精以外のエルフというのは恐ろしく珍しい存在だ。
俺も母親以外ほとんど見たことがない。
一般に「エルフ」と言われる存在は「自然生活に憧れる半妖精の集落の出身者」がほとんど。
本物は森や山、谷や空、海の中にある宮殿で暮らしていて、人目に触れることはない。
「エルフ……違います。私はお父様の娘です」
『孔雀石』さんは眉を細めた。
「ごめんなさい」
「すみません」「ごめんなの」
何故に正座。ファルコよ。
あまり良い気分ではないらしいのだが、その表情すら美しい。
「自慢の娘だっ!!」
ドワーフには珍しいことだが、大笑いしながら彼女の背を叩く村長。
背中を押さえて呻く『孔雀石』さん。
その怪力で華奢なエルフの背中叩かないでください。背骨折れます。
「どわーふさんってえるすさん苦手じゃなかったっけ?」エルフだ。エルフ。
村長は黙っている。ドワーフは嘘をつくことができない。
ドワーフもエルフもどちらも妖精族には違いないが、
何でも体臭やら精霊や魔力の『気』が違いすぎて隣にいるだけで微妙な不愉快感をお互い感じるらしい。
厳密に言うとファルコのようなグラスランナーもエルフなのだが、
少年少女の容姿のまま膨大な魔力が精神力と身体能力として発現することで『気』が少し違うことと、
グラスランナーが容姿そのままで人懐こく、
ドワーフが子供をとてもとても大事にする特性があることからか、そういうのは無いらしい。
「ペラペラしゃべるな。人には事情がある」「ごめんなさい」
流石にロー・アースが止めた。
「失礼しました」彼は二人に頭を下げた。
「帰ろう」用事は終わったとばかりに村長と『孔雀石』さんに挨拶した彼は出ようとするが。
「ドワーフは客人をもてなすものです」
『孔雀石』さんに止められ、俺たちはドワーフの村に滞在することになった。
……。
……あちこちで槌を鳴らす音がする。
無愛想で頑固者というイメージがあるドワーフたちだが。
『孔雀石』が通るたびに
「おう!お嬢!これもってけ!」
「村長に宜しく!」「『孔雀石』ねぇちゃんだ!」と大人気。
勿論一緒に歩く俺たちもアレコレと質問されたり、
持ち物に少し珍しいものがあれば手にとって調べられたり、
どういった旅をしていたか色々きかれてしまう。
こんなに皆愛想いいならいつもそうしててほしい。マジで。
「『藍銅鉱』。またなの?」
「はははっ!またイボでやがったからなっ!」
見ると青いイボをかみそりで剃っている奴がいる。痛くないのかっ??!
「病気を治す祈祷でも治らないのです」
……へぇ。そんな病気あったっけ。
「ダンゴまた焼かないとなっ!高く売れるんだ!」
見ると傾斜を生かした大きな窯が見える。
鉱山から出た物質をダンゴにして焼くことである種の劇薬になるらしい。
医者として少し気になる。
病気じゃなくて……毒じゃね?
とはいえ、彼らは病気や毒に強い耐性がある。
俺が悩んでいると、子供の大声がその思考を打ち砕いた。
「『孔雀石』ねぇちゃん。石垣見て!!」
「うん!!」
ドワーフの子供たちがぴょんぴょん……どすどすと跳ねながら石垣を積んでいる。
彼らは土をガシガシ掘り、
出た石は次々と放り投げ、凄い勢いで石垣になっていく。
「ああして、土砂崩れを防ぐのです」へぇ。
「畑の作物がうまく育たなくて……植物さんが苦しい苦しいって言ってます」
心苦しそうに言う『孔雀石』さん。
……村の中では彼女しかわからんらしい。
「ホントだねぇ。辛い~!苦しい~!って!」
ファルコが眉をしかめる。
「この村を開いたばかりの時はミツバチやキノコもたくさんとれたのですが」
今はほとんど取れなくなったという。
ドワーフも蜂蜜が好きだ。意外な事実である。
この村は新しいらしい。
なんでも30年そこそこの歴史しかないそうだ。
「ドワーフさんの村って何百年もあるんだと思ってた!」俺も。
ファルコの疑問に『孔雀石』さんは笑う。
「私たちは世界中にある不思議な鉱物や金属の守護者ですから」
彼らの視界は大地に埋もれた特殊な鉱物を透視するらしい。便利な能力だ。
その力で不思議な鉱物を見つけるとその周辺に住まいを構えるらしい。
「ここから、村が一望できます」
石垣を登り、少し高いところから村を見る。
「うっわ~~~~~~~~~!」
俺たち三人は思わず歓声を上げた。
キラキラと輝く水。
くるくる回る風車や水車。こぎれいなデザインの家々。
両脇に様々な花を植えられた道。
その小さな道全ては黄色いレンガと夜光性の透明な石でできていて、
見栄えと実用性をかねている。
「これは……村ひとつがそのまま大きな芸術品のようだ」
ロー・アースが唸る。
「……でも」「うん……」
何かがおかしい。何がおかしいって言わないが。『何か』が。
「精霊が泣いている」
「……虫さんが痛い。苦しい。辛いって」「……わかりますか?」
本来、妖精の里というのは精霊に祝福された存在だ。
なのにこれほど精霊の嘆きが聴こえるのは。
「私は、お山に原因があると思っているのです」
『孔雀石』さんは辛そうに言った。
この村を包む「何か」。
俺たちがこの見えない敵と戦ったのはひょっとしたら運命だったのかもしれない。




