8 覗き魔になりたいわけじゃない
「で。俺たちはお坊ちゃまの夜伽の見張りをするわけか」「でばがめなのの」
そんな事言うな。恥ずかしい。
実際問題、そっち専門の下女もいるもんである。
そうやって生まれた子供は色々利用価値があるらしい。
「しかし。あれだな」「うん? 」「みゅ」
必死で窓の外から昇って様子見をしようとする赤い服の娘を縛り上げ、俺は夜風に身を任せる。
「こうして、ゆっくり話したことってあんま無い気がする」
野営のときは、ゆっくり話してはいるが、周囲への警戒を怠っていないしな。
「ぼうっとしているのはお前だけだ」呆れるロー・アースに笑ってみせる。
「なぁ。ロー・アース。結婚って興味あるか」「無い」
つまんねぇヤツ。空気読めよ。
頭上の窓の上の嬌声さえ無視できれば、まぁ悪い気はしない。
というか、ドキドキする。何やってるんだよ。上は。
「刺激が強いなら、ちょっと離れていたほうがいいぞ」
必要になったら俺の愛馬であるシンバットと一緒に駆けつければいいとロー・アース。
そういえばファルコといい、コイツといい性欲とは無縁だよな。
人間かどうか怪しいレベルだ。ファルコは人間じゃないからいいけど。
「いや、親父で慣れている」妙にドキドキするだけだ。坊ちゃんにもらった酒の所為だろうか。
自分自身は経験は無いが、あの親父は平気で娘の寝ているベッドの横に酒場で逢った女を連れ込むしな。
「おぼっちゃまが女とやっている間は安全か」
とりあえず、わかったことはそれだけだ。坊ちゃんは嫌そうな顔をしていたが、女自体は嫌いじゃないそうだ。
「でも、あのぼっちゃん。絵師を『知らない』らしいんだ」
俺はあの坊ちゃんが絵師に化けてこの屋敷を徘徊している。そして暴行を行ったという線を捨てていない。
「らしいな」「だぁね」
「だいたい、なんで好きな女は抱かないのに、そこらの下女は抱けるのかが解らん」
俺が疑問を口にすると、二人は長々とため息をついた。
「こどもだぁねぇ」ファルコ。幼児の姿のお前に言われるとムカつくんだが。
「『目線』の問題だな」はあ。よくわからん。
「『大切な人』ってことは『自分の一部』なんだ。解るか? 」はぁ。
よーわからん。そういうと彼ら二人は笑った。
「やっぱり」「コドモだねぇ」なんか。むかつく。
お坊ちゃん曰く、「レイハが夢に現れることが少なくなった」らしい。
最後に現れた夢を聞くと苦笑しながらこういわれた。
「頬を膨らませながら、思いっきり抗議されたよ」
かれはそういいながら、寂しそうに呟いた。
「跡継ぎを作るのも、私の『仕事』だからな。理解はして欲しいと告げてある」
無理だと思うぞ。
もし、彼が絵師を思う無意識の行動が、深夜の徘徊と絵師への『変身』と言う形で現れているならば。
彼自身が絵師のことよりも自分の責務を果たすことに心を砕くようになれば収まるかもしれない。
だが。『幽霊』が本当にいたらどうなるんだろう?
少なくとも、現在『幽霊』が出ていない事実から、彼の無意識の行動。所謂夢遊病として収めるのが筋なのだが。
何かが。ひっかかる。そう思いながら俺は昇る太陽を尻目に寝床に入った。
……。
……。
ダメだ。ちょっと服を着替えて、洗濯して冷たい水で身体を洗ってからにする。
妙に興奮して眠れん。アンジェじゃないが悶々としてしまう。
ダメだダメだ。落ち着け俺。




