6 閑話。小さな手袋
「どう思う。チーア」
俺に聞くなよ。ロー・アース。
「嫌な依頼ね」「おばけさんでないかなぁ」
アキがファルコに襲い掛かり、「おばけ怖いっ~♪ こわぁぁっいっ~♪ 」とじゃれだした。
ファルコはじたばた。学習能力ないだろ。ファルコ。
「今日で三日目。相変わらずお化けは出ません」
何度目だ。この報告。ちなみに何故か俺もロー・アースもファルコも下女や下男が着る服。
何故かファルコは下女のスカートを着せられている。そりゃ確かに美形で女の子の服を着ても違和感ないが。
(アキはその姿をみて発狂する勢いでファルコを愛でた。ファルコは泣いていた)
気がついたら掃除洗濯草むしり。俺たち別に下男下女やりにきたわけでは無いんだが。
というか、なんで俺までスカート。そりゃ女だけどさ。
「似合ってるわよ。チーア♪ 」
アキだけは相変わらずのいつもの赤い服を着たまま俺の近くで本を読んでいる。
「おまえさ。字読めたんだな」というか、意外と賢いんじゃね? コイツ。
「当然読めるわよ。共通語も古代魔導帝国文字もこの国の文学も読めるし翻訳もできるわ」アンジェじゃあるまいし。ありえん。
ちなみにアンジェっていうのは俺の神官仲間だ。弱冠十二歳だが妙に教養がある。
冬の風も気にせず、彼女は頁をめくる。
「結果を出さないといつの間にかメイドさんになる羽目になるわよ」「女の格好なんて」
そりゃ、ホントは女だけどな。
「似合っているわよ。凄く可愛いじゃない」……。
顔が赤くなる。そりゃ、これはこれで着心地いいけどさ。
草むしりする手が痛い。素手では辛いので手袋を使っている。
手袋が用意できない下女の子たちに予備を作ってあげたら喜ばれた。
「その手袋、チーアが編んだの? よく出来ているわよ」「アップルに作り方を習った」
アップルはファルコの母親だ。彼女は毛糸を両手の指10本を駆使して服やマフラーや手袋や帽子を易々と編み上げる。
「羊の毛だけじゃなくて、ファルコの髪の毛を少し混ぜた」
エルフの亜種である彼の髪の毛は可也頑丈だ。あと知り合いのエルフ。『ぎんのかぜ』の髪も少し混じっている。
「私にも編んで欲しいな」「自分で編め」
普通は布にしてそれを形にするのだが、アップルのやり方は相手の体型に丁寧にあわせたものを作ることができて凄く使える。
なんでも盗賊の真似事をするには手にぴったりの手袋は重要な道具らしい。詳細を聞いたときは後悔した。
「エルフの髪なんてそうそう手に入らないのよ」「散髪を手伝えば手に入るぞ」
草をむしる。ああ。うっとおしい。
「エルフの髪って。痛覚があるのよ。ちょっとだけだけど」え……。
アキはにこやかに微笑んだ。「だから、彼らは髪を切る習慣がないのよ」……。
「でも、ファルコは」
「ミリオンはぼうぼうだし、アップルは伸ばしているでしょ」
上背的に不便なのである程度は切るが、それでも最低限らしい。
「今度、ファルコにお礼を言っておく」「そのほうがいいわね」
ファルコ曰く、「えるふさんほど痛くない」とのことだったが。
それでもこの小さな手袋は、俺やこの屋敷で働く下男下女の宝物になった。
俺はこのときは知る由がないが、軽く頑丈で暖かく指先まで吸いつく心地よさの妖精の髪を編みこんだ手袋は代々受け継がれている。らしい。




