3 そんなの聞いていないぞ
「貴様らが『夢を追う者達』? 」疑わしいものを見る目で俺達を睨むおっさん。
無理も無い。幼児を抱くやる気の無い青年。結婚適齢期の赤い服を着た娘。そして反抗期の子供にしか見えない俺を見れば。
「お初にお目にかかります。私は『五竜亭』の者でアキ・スカラーと申します。
そして彼らが『夢を追う者達』」そういってアキは後ろの俺達に視線を向けさせる。
子供二人を連れあるくやる気のなさそうな男を睨みつけるおっさん改め侍従長。
「ロー・アースと申します。こちらの背中で眠っている子供がファルコ・ミスリル」
彼はファルコを負ぶったまま頭を侍従長に下げる。
「みすみるなの」「ミスリルだろ」「そうともいう」器用な寝言だな。ファルコ。
「チーアです」一応、彼を真似て頭を下げる。
「天才美少女のアキ・スカラーちゃんです♪ きゃぴ♪ 」謎のポーズを決めるアキ。……。
「では。状況を説明します」
俺たちは立席したまま侍従長の話を聞く。
隣ではロー・アースにぶん殴られたアキがファルコを抱きしめ、
「いたいよ~♪ ファルちゃん痛いよ~♪ 」とぼやいている。ファルコはじたばた。
「コホン」侍従長の咳払いに「後ろは気にせず」とロー・アースが流す。……埒があかないので侍従長は話を続ける。
曰く、『幽霊』は半年前に死亡したお抱え画師であること。
1ヶ月前からその出現が頻繁になってきたこと。
当主様に攻撃をしてきたこと……。
「攻撃? 」ロー・アースが不思議そうにしている。
「魔法ではなく? 生前のそのお抱え画師は魔術の類を使えましたか? 」
身体が無いのに攻撃といえばポルターガイスト現象ってのが挙げられるがソレではないらしい。
「魔法が使えるなら、あの娘は画家などやっていないでしょう」
どうなんだろ? 絵が描けるってのはかなり金持ちじゃないと出来ない特技だからなぁ。絵の具が高い。
「お抱え画師という確証は? 」
ファルコを抱きしめながらアキが問いかける。
「失礼ですが、幽霊の類で像がハッキリしている存在は極めて強敵です」アキの表情が硬い。要するに。
『私が俺達の手に負える相手ではないと判断したら、即、別の冒険者を雇え。報酬をケチるな』
「実体化の能力がある存在は極めて危険です。
今すぐ正義神殿に『寄付金』を積み、聖騎士を要請すべきです」
彼女は手に負えないと判断したらバドという『五竜亭』出入りの聖騎士を呼ぶつもりらしい。
「屋敷を壊されてはたまりません」
侍従長は嫌そうに首を振った。聖騎士は王国の法で裁ききれないほど強力である。
「良いでしょう。ですが」アキは固い声でつぶやく。
「私は『五竜亭』の一従業員に過ぎませんが、今回の件では一任されております。
また。……ロー・アースは私の親友です。チーアはからかい甲斐がある友人ですし、
ファルちゃんは可愛い子です。店主も目をかけています。
公私混同も甚だしいですが、危険と判断した場合、彼らの依頼遂行を停止し、違約金を頂きます」
「使い捨ての見習い冒険者ごときに篤い待遇だな。あの店主には儲けを考えるように伝えろ」
侍従長はにべもない。
アキは平然と答えた。「『損して得をとれ』は店主の弁です」
アキって結構怖いんだな。さすがアーリィさんの弟子。
にらみ合うアキと侍従長に割ってはいる俺。
「ま、まぁ、像がハッキリしているってことはイタズラの類の可能性もあるわけだ」
と、いうか、お化けなんてそうそう出るものではない。攻撃はちと物騒だが。
「ロー。この依頼、断っていいわ」アキは侍従長を睨み付けながら言った。
「思ったより危険そうだし、報酬が安すぎるわ。
(ぼそ)……前金だけでは裏を取りきれなかったの。辞めておきなさい」
「やるのっ! 」
ああ。余計なこと言うなっ! ファルコッ!
「ここでやらないとだめなのっ!! 」
「よ、余計なこというなっ! ドブさらいでもやってたほうがっ! 」
「おじけづくのはもっととしとってからなのっ!! 」……。
「ロー。俺さ」
ロー・アースは嫌そうに頭を掻いた。
「はいはい。まぁ、そろそろ少し危険な仕事も請けないといけないって思ってた時期だからな」
「喜んでお請けします。侍従長殿」
「なら。私から言うことは無いわ」アキの表情は硬い。
「では、帰れ。そして店主に伝えろ。無能なウェイトレスなどを代理人に使うなとな」
「何を言っているのですか? 」
アキはいつもの笑みを浮かべた。
「私は、彼らの仲間です」




