第十七夢 影絵の美女に花束を プロローグ
「ぼくら『夢を追う者達』はぼうけんしゃになって以来、
いちども冒険っぽい依頼を請けたことがなかった……」
重要な話があると珍しくファルコに呼び出された俺たち。
冒険者の宿、『五竜亭』のテーブルに陣取った俺たちは、彼にしては珍しい長台詞を淡々と話すファルコ。
ファルコ・ミスリルの声に耳を傾けていた。
俺。チーア。冒険者だ。
まぁ確かに掃除洗濯と変な依頼ばかりだったなぁ。しかも毎回死に掛けている気がする。
「そーじ! せんたく! こもりにドブさらい!! 酒場で歌って踊って手品して、皿洗いに料理してっ! 」
ホント。毎回莫迦な依頼を請けては何故か毎回死にかけて。良く生きているよなぁ。俺達。
慈愛神殿の炊き出しに参加するために塵拾いやスラムの糞尿回収。恋文や手紙の代筆とその配達。
スラムの闇医者や闇司祭の施療所の手伝い(違法)。などなど。
「たまには派手に冒険してみたいよなぁ」「だよねぇ! 」
俺とファルコが同じテーブルにつくやる気のなさそうな男に訴える。
「仕事があるだけマシだろ」そういって「用がそれだけなら俺は帰る」と席を立とうとする。
このやる気のない男は、一応、俺達のリーダー(?)になっている。名前はロー・アース。
「おい。ロー・アース。やる気ないだろ」俺も思うことは多々ある。
「仕事がねぇならなんかしないと死ぬってもんさぁあああ」欠伸するなっ?!
「いや、いつも死に掛けてるしっ! 」温厚なファルコが文句言うのも無理も無い。
うん。めっちゃ死に掛けてる。この間はヤバかった。
「たまには。せめて犬頭鬼族退治くらいやれないのかよ。古代魔導帝国の遺跡探索とかっ?! 」
「お前ら、殺生嫌いじゃねぇか」
……見抜かれていた。確かに苦手だ。狩人として獲物を狩るのとは明らかに違う。
「……ぼくはだいじょうぶ? 」ファルコが可愛らしく小首を傾げる。
「お前は別の意味で危険だ」ロー・アースは半眼でファルコをにらみつけた。
ファルコはこの容姿と性格の反面、悪党には容赦というものを知らない。
「死刑」といったら俺達が止めない限り本当に殺しにかかる。
相手が貴族だろうと子供だろうと老人だろうと関係なし。
「あと、遺跡探索は大抵探索が終わった迷宮ばかりだからな」
そもそも、上下水道とかには宝は無い。家なら500年以上前の家が綺麗に残っている事は無い。
所謂迷宮探検競技用の遺跡はメンテナンスを行うものがいないので、思わぬトラブルが発生する。
以上の理由で。
当たれば大きいかもしれないが初期投資その他でお勧めしかねると言われる。
未踏破の墳墓や遺跡を見つけて、そのまま大金持ちになって貴族の仲間入り。
そんな夢物語は昨今はあまりない。らしい。
「そうそう。以前会ったが。竜族も最近見ないらしいな」
威厳の欠片も無いヤツだったが。
「でもっ! 」
諦めろとロー・アース。「それなりに信用されているし、仕事もある」との事。
よくわからないが、どんな依頼も請けるし、どんな願いもかなえると言う誤解がまかり通っている。
「でもっ! でもっ! 今回はちがうもんっ!
ぼくらの実力を発揮しっ! かっこいい冒険が出来るお話なんだっ!! 」
燃えてるな。ファルコ。
で。
「どんな依頼? 」
ふふふ。やりがいあるよ~。とニッコリ笑ってテーブルの上に座るファルコ。何故に正座。
身を乗り出した俺達に彼は耳打ちする。「あのね。あのね!」耳打ちするにしてはやかましい。
明かりの獣脂の匂いが鼻につく。良く磨かれたテーブルに俺は肘を立て、ファルコの話に耳を傾ける。
……。
………。
「幽霊退治だとぉ????????????! 」俺は思わず大声で叫んでいた。




