エピローグ くちづけより簡単
額にひんやりとした感触。
つめたい。ああ。つめたい。
「ははは」「ちぃや。これはぼくのごはんなのの」「莫迦言え。俺のパンを食うな」「おーい。魚が釣れたぜ。メシにしようか」「ねね。でっかいムカデとれたよ」「すててこい」「すててこい」「チーア。こっちだ」「ちぃや。こっちなのの」「チーア」「ちいや」「チーア」「てぃあ」ティアって言うなって……ファルコ。
「よんだ? 」へ?
俺はゆっくりと目を開ける。
石化して死んだ筈の妖精が目の前で微笑んでいる。
「ちいや。起きたのの!! 」
はしゃぐ彼を俺は呆然と眺めた。
ここ。は……。
俺は頭を振った。まだ朦朧とする。レッドの莫迦。殴りすぎだ。
薄暗くて、石と漆喰の壁。この壁には見覚えがある。
「起きましたか。チーア様」
いつの間にかリリが立っていた。寝台から飛び上がって震え上がる俺に彼女は苦笑い。
「お、お前は後ろに立つなっ?! 」「そんなことを言われましても」癖です。とのこと。
迷惑で怖い癖だ。
「お召し物をもってきましたよ」「へ? 」
粗末な寝台。毛布ともいえない布。
おそるおそる胸元を見る。白く、まるく膨らんだ。中央に薄い桜色の突起。
「……」
俺は目の前ですっとぼける盗賊を睨みつけた。
「お。俺はなんも見なかった」真っ赤な瞳と同じく真っ赤な顔で目を逸らすソイツ。
みまくってるだろうがっ?!!!!!!! れっどぉおおおおおおおおおおおおおおおっ??!
「出てけええええええええええええええええぇぇぇっっ!!!!!!!! 」
思いっきり石をぶつけてしまった。クソ。レッドに女ってばれたじゃないか。
「おきた? チィア」
にくったらしい声が足元からする。
「ピート。お前か」
俺が手元のインク壷に手を伸ばすのを見て彼は首を振る。
「まって? まって? 僕は命の恩人だからっ?! 」
聞けば、ファルコの石化を解いてくれるように頼んだのも彼とその母のアンジェリカらしい。
「まぁ、邪魔だから隠れていたら」やっぱなんもしてなかったのか。貴様っ?!
「やばいって『感じ』がしてさ。聖騎士さんたちに頼んで突入を早めてもらって正解だったよ」
あの邪眼もちはアンジェリカに倒された。らしい。どうやって倒したんだろう。
「そっか」
だから、生き延びたんだな。俺たち。
でも、俺たちを逃がそうと。ロー・アースは。
「ん? 元気になったって? 」
慌てて胸元を隠す俺。
振り返ると、ロー・アースがいた。
「幽霊だよな? 」間違いなく、胸を刺されたはずだが。
そういうと彼はニコリと笑って青く輝く砕けた宝石を俺に見せた。
「『身代わりの宝石』貴重な品だが役に立った」と笑いながら。
誰に貰ったんだよ。そんなもの。そういうと『妹』と帰ってきた。
そっか。
貴方たちって仲がいいのね。
呆れていると思われたのだろう。
彼は死んだふりをして背後から攻撃して、
アンジェリカと一緒にあの邪眼を倒したことを告げる。
「ばか」
ぽろぽろと私の両目から熱いものが流れた。
「ばか。ばか。ばかやろう」しんぱいかけて。
「メシ。奢れよ」「なんで俺が」「わぁいっ! 」「流石ロー・アースだ。フルコースで頼むね」
後ろでは頬を赤らめて期待に燃えるアンジェリカもいる。
グラスランナー三人の胃袋に彼の財布は『危険がヤバい』だろうが知ったことか。
俺たちはヤツの腕に手を絡めて街に向けて歩き出した。
「お兄ちゃんっ?! 怪我したってっ?! 」
遠くから駆けてくる美少女にヤツは手を振る。
「いいのがあるんだ」
彼は小さな人形を彼女に渡した。
「今日は。お前の誕生日だろ」「覚えてくれてたの? 」
ニコリと微笑む彼女は高く。飛んだ。
エフィーの唇は。ロー・アースの唇を捕らえていた。
もし、郊外の森の奥に不思議な形の宿を見つけたのなら。
もし、君が叶わぬ望みを胸に秘めているならば。
迷わず「俺たち」を指名して欲しい。きっと。望みは叶うから。
ただし、兄妹喧嘩は犬も食わないので勘弁なっ?!
(Fin)




