7 突撃より簡単
「ここか」「なのの」
頷きあう。俺とファルコ。
「作戦はいつもどおりでいいのか? 」
ファルコが『眠り』の呪曲を奏でて近づき、正面から侵入。
背後から俺とロー・アースが突く。正直作戦でもなんでもない。力押しだ。
「耳栓。されている可能性があるぜ」
なんせ前回はそれで壊滅した敵だ。対策は取っているはずだ。
「ロー・アースは? 」「正義神殿と連絡してるのの」
まぁ、無断で暴れれば俺たちのほうが犯罪者だもんな。
「じゃ、ロー・アースを待つか」「うん」
俺とファルコが石はじきをして遊んでいると、ロー・アースが戻ってきた。
「おまえら、何をしているんだ」やばっ。
「石で遊んでます」「正直で大変宜しい」
ロー・アースに髪の毛を掴まれた俺たちの頭ががっつんとぶつかった。
ファルコ。石頭すぎるだろう。
「入り口はあそこしかない」
つまり、正面突破になるってことか。
「よって、本日は『魔唱』の呪曲を使う奇襲とする」オーケー。俺の出番だな。
俺は竪琴を取りだす。安物で調律もままならないが竪琴には違いない。
『魔唱』。釣られて思わず唄い続けるという非常につまらない歌だが、
(単純な効果なら『踊り』の呪曲のほうが効果的だろう)
魔導士の詠唱を阻止したり、隠密行動を阻害したり、応用力が高い。
何より、『動きそのものは阻害しない』のが大きい。
そして、ロー・アースもファルコも隠密の技術や魔法に通じている。
彼らは耳栓をつけると、何処からともなく流れる吟遊詩人の歌声につられて歌う連中をバタバタと気絶させていく。
最後の一人が倒されたらしい。拍手六回と五回。倒した敵の数だ。
何人かは耳栓で対策をしていたようだが、耳栓をした状態で隠密行動を行う敵と相対するのは自殺行為である。
そもそも今回は頼りになるヤツら……あまり関わりたくないが。が手伝ってくれてるしな。
「殺さないのが一番苦労したんだけどね」
本来なら可愛いのだろうが、普段の行動が行動だけにそのツリ目が憎たらしい顔立ちに見える。
ファルコの知り合いにして俺たちにとって腐れ縁。名前はピート。
話にも出したくないが、コイツの悪戯や妨害は目に余る。
ナニが殺さないだか。大して強くも無いのに妄想酷すぎるぜ。
「御武運を」
艶やかな微笑みを浮かべる赤毛の娘、アンジェリカは、130センチそこそこある。
一見10代前半のスラリとした体つきのなかなかの美少女だが。
ピ ー ト の 母 で あ る 。
ピ ー ト の 母 で あ る 。信じられないだろうから二回言います。
「主上。敵は皆屠りました」
最後の一人を見て俺は驚いた。
「なんで。お前がいるんだ」
死んだ。筈だろう。
「今は、主上の命により、慈愛神殿の侍祭・ジェシカ様に仕える身です」
そういって恭しく俺に頭を下げる女。いや少女は最悪の記憶とともに。
「『黒き針』……」
かつて暗殺者として俺たちと戦い、ファルコを殺しかけた娘だ。
そして、ロー・アースと戦い。全身の腱を盗賊ギルドによって切られ、とある男爵家の『養子』として『病死』したはずの娘だ。
「今は、主上に名前を頂き、神の道を歩みはじめています」
少女はそう呟くと、俺になぞめいた微笑みを向けた。
元暗殺者なんか。飼うなッ! ジェシカッ!
「行くぞ。『人形』の製造工場を押さえる」
「私たちは外に出ようとする人間を」「全て逃がすな」
ロー・アースの言葉に頷く『暗殺者』たち。ミリアの親父が呼んだ増援である。
『黒き針』はさておき、何故あの親子まで来たのかはちょっと不明だが。
『工場』は小さい。大き目の民家くらいしかないだろう。
「あそこで、『人形』が作られているってか」全部焼き払う。
「ああ。間違いない」「なのの」
ファルコ。お前、隣に『黒き針』がいるのにこだわり無いな。少し見直した。
「いてきます。なのの」
「土産は王国大金貨二十枚で」適当なことを言うピートはしばく。
黙っていれば可愛いファルコの同族。グラスランナーなのだが。コイツはイチイチむかつく台詞を吐く。
「ピート。無駄口は叩かない」「母さん。チーアがぶつ」頬を膨らませるピートに呆れるアン。
「主上。御武運を」「リリ。大丈夫だ」
少女の言葉を受け、ロー・アースは手をヒラヒラさせて応じ、彼女に背を見せる。
暗殺者相手に背を見せて。いいのだろうか。そう思っていると『黒き針』は確かにニコリと微笑んだ。
「あんなんの何処がいいんだろうな。まったく」
俺は突撃前だというのに、無駄に異性にもてる呪いを受けた男を見ながら呆れていた。
『突撃』
合図とともに作戦が始まる。




