5 寄付より簡単
「これはどういうことでしょうか」「女神様の計らいでしょう」
絶句しかけている侍祭・ジェシカ。通称神官長のカレン。
高司祭さまの信任厚い二人はその地位に反した強い実権を持つと同時にそうそう取り乱したりはしないのだが。
「奇跡でも女神の計らいでもないです。現実に帰ってきてください。二人とも」
いつもスカスカの癖に俺とアンジェとロー・アースとファルコが入って遊べる程度にはデカイ立派な賽銭箱にはアホほどの王国大金貨と為替が詰まっていた。二人が呆然となるのも無理はない。
「婿殿の申し出ならば致し方ない」「いや、俺。女なんすよ」
あの親父は俺が女と教えても言うことを聞かない。マジでミリアの親父だ。
え? ミリアにいってみたかって? 胸も見せてみたが普通に幻術と思われたらしい。
「半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない半妖精の男より小さくない」
現実に戻ってきてくれ。ミリア。
理性を取り戻した後、
俺を引き摺って実家に戻ったミリアはあっという間に隔離施設の増設に必要な寄付と、
戦神神殿の癒し手たちの協力の手配をつけてきた。ありえない。
戦神神殿が動くより早く、正義神殿が動いていた。
知り合いの聖女さま曰く、『病に異教徒はありません。異教徒からも病はうつりますしうつされます』らしいが。
そんなこんなで向こうの施療所を使わせていただけるように手配をつけることに成功。
「私に個人的なお礼はないの」と熱い目で俺を見る聖女さま(見た目十ニ歳。実年齢二十歳以上)は無視した。
知識神殿は治療施設が小さいので致し方ないところがあるが、
商業神殿は金か慈愛神殿の名物を寄越せと言ってきたので殴ってしまった。あの生臭坊主は呪われていい。
そういえば商業神殿は正義神殿と並んで神の加護を得た神官の数は少ないらしい。納得である。
「やりすぎだろ」
貧乏神殿に入り込んだ庭師だの大工だのがガンガン神殿の補修やら整備をやっている。
勿論。俺たちもやっているが所詮女仕事である。本職には劣る。
「亡国病と闘うのに、こんな貧弱な施設でどうこうできるはずは無いでしょう」
そういって胸を張るミリア。一応、車輪の王国一の規模を持つ治療施設って言われているんだけど。うちの神殿。
まぁ、老朽化が進んでいて設備では正義神殿に劣っていたのも事実だが。
「一部なら我が神殿のほうが優れた施設がありますよ」マジか。アン。
「規模は大幅に劣りますけど。ね」戦神神殿は戦乱時は拠点のひとつとして機能するしなぁ。
戦神神殿から派遣されてきた神官の一人。アンは若いながらも奇跡の力が強い。
聖女さまであるドミニクほどじゃないが。
俺たちがポンポンポンポンと傷を癒したり病気を癒したりすることは神様の有り難味を損なうので普通はやらないし、やれる人材が少ないのだが、うちと戦神神殿は例外である。
だから貧乏なんだ。両方とも。
「でさ」
「あの子達、どうよ」言うまでもなく、例の『薬』の被害者たちだが。
「『悪意の鍵』の使用が認められます。薄めて。ですが」やっぱり。
アンは沈痛な表情で呟いた。「『悪意の鍵』には魔道の効果も付与されており、普通の祈祷は」
結核騒ぎと同時進行とは、マジで頭の痛い問題だ。
うちの神殿は病人の受け入れが大半だが、戦神神殿は傷と毒の受け入れが圧倒的多数を占める。
毒ならうちより戦神神殿だ。もっとも治療が荒い。マジで殺す気に違いないほど荒い。
アンの言う「規模は劣るが施設では勝る」分野は『毒』だ。
実は商業神殿のほうが戦神神殿より規模も設備も整っているが神官の数が足りない。
基本は医者である。そしてカネを取る。知識神殿はマシだが時々謎の新薬を持ち出してくる。
「例の人狼化した男は」「なんとか理性を取り戻すようにはしているようですよ」
戦場では身体より先に頭がおかしくなるヤツが少なからずいる。戦神神殿の経験は貴重だ。
「この子も、病気ですか」「いんや。恋の病」
ぽけーとしているファルコよ。頼むからこっちに戻って来い。




