3 美女より簡単
話は遡る。
「ロー・アース。『陶磁の人形』を見たことがあるか」
今度の依頼人は傭兵風のガタイの良くてゴツイ野郎だった。
天然痘の痕と思しき痘痕の残る目つきの鋭い男だ。
ぶすぶすと燃える獣脂の煙が目に染みる。
この宿、たまに換気をしないと危ないくらい暖かい。
普通は隙間風だらけのはずなんだが。
「ああ。最近子供たちに人気のある人形だな。綺麗で表情豊かで暖かい顔立ちが特徴だと」
ホント、ロー・アースって何でも知ってるよな。羨ましい。
「東方帝国の白土で出来た人形に対抗して作ったって聞いたよ」
それを聞いていたファルコが呟く。博識なヤツだ。まったく。
「白土に見えるが、あれはおがくず。木を削ったゴミを固めて色を塗って作る」
ロー・アースが補足する。「しかしよく知っているな」「えへへ」
なんでだろう。本なんか読まなくていいと思うけど少し悔しいかも。
「ロー・アース」「なんだ」
「俺はここまでのようだ。後は任せた。任務達成の報酬は。エイドに既に渡してある」
「? 」「みょきゅ? 」「何を言っているんだ。ジョセフ」
いままでの元気そうな様子とうわはらにガタガタと震えだす。男。
秋の寒さとは無関係らしい。
「俺が掴んだのは、『悪意の鍵』とあの人形は何かあるッ! 何かあるんだッ 」
めきめきと言う音がする。先ほどまで男だった。人間だったものから針金のような毛が生え、鍵爪が伸び、咆哮を上げる。
「皆。逃げろッ! 」
脚がガタガタして動けない俺を引っつかみ、横っ飛びしたロー・アースは二本の剣を抜いて。
「ファル! 」「みゅっ! 」ファルコの短剣が躊躇なく其の男だった魔物の心臓を貫く。
「やっぱり、通常の武器では傷つかないか」ロー・アースは目を細めた。
「ファルコ。銀の針金を持っているな。捕縛する」「みゅ」
「チーアッ! 援護してくれッ! 」あ。ああ。
「慈愛の女神よ。我らに邪に穢されし命を救う力を与え給えッ! 『聖なる武器』ッ! 」
光り輝くロープと針金を持ったロー・アースとファルコが半人半狼の魔物に切りかかった。




