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9 無自覚逆ハー気質。ただし同性に限る

 「チーアッ!!!」

ひょいっ。


 ずべた~ん!!

派手にこけるアンジェ。涙目を俺を見上げる。

「なんでかわすのよ」「予測できたから? 」


俺が意地悪そうに笑うのを見て彼女の頬が真っ赤になる。

「ひどいひどいひどい~~! 」と地面にバタバタするアンジェ。

下着見えてるぞ。おい。下級神官の癖にいい下着だな。


 「まぁまぁ。砂糖菓子持ってきたから機嫌直せよ」「子供じゃないのよっ! 」俺より年下じゃん。

「なんで病気だとキスしてくれてっ! 病気が治ったらいつもどおりなのよっ!

ヤダヤダ! キスしてくれなきゃヤダッ!! 」

地面でじたばた暴れるアンジェ。……下着どころか、腹見えてるぞ。


 真面目に言うと、先日のアレで。

たとえアンジェ相手でも唇同士を合わせるのは極めて危険だと判った。

相手の深層心理まで踏み込みかねない。


 「ちゅ」???

不意に右頬を襲ったやわらかくて濡れた感触に思わず振り返る。


 もじもじしながら少し赤い頬をして俺から視線を逸らす娘。

「ミズホ? 」「なんでそこでおねえちゃんなのっ! ミナヅキッ!! 」あはは。わからん!

同じく、結核に侵されていた同僚のミナヅキ。彼女には双子の姉がいる。


 「べっつに。チーアのことなんか好きになったわけじゃないけどぉ。

ホッペにチューくらいいいかな? 一生結核だと思っていたら治っちゃったし」

あはは。ミナヅキ。迷惑かけたな。


 「……」

アンジェが冷たい目で俺達を睨んでいる。

「い、いや、不意打ちだったからかわせなかった」「へぇ? 」

ちょ。アンジェ。怖いんだが。

「お、おい、ミナヅキ。責任取れ」


 「エ? (カカッ! ) 何ノコト?? (タンッ! )ワタシ、『ミズホ』(トタタッタ! )」

彼女ミナヅキはカカカッ! と小粋なタップダンスを踊りながらそう答えた。


 「ぷぷっ??! なにそのダンスッ!!! あはは???!! 」

半眼だったアンジェも俺も耐え切れず大笑いする。「??? 」自覚がないらしいミナヅキ。

やっぱりというか、なんというか。この二人は見事に無断外出がばれてカレンに契約祈祷を喰らった。


すうとアンジェが息を吸い。ニヤリと俺に笑いかけた。


 「チーアなんてダイキライッ!

キスなんか一生してあげない! 童貞奪うなんて絶対やだ!

友達だなんておもってないし! 感謝だってしていない! 」

 華麗なタップダンスを披露して彼女アンジェはニヤリと笑い、優雅に一礼。

ミナヅキはと俺は一斉に拍手した。


三人で笑いあいながら、喜びの涙を流した。


 「チーアさんっ!!!!!!!!! 」

おー。アン。うまくいったなっ!

部屋に飛び込んできた戦神神殿の司祭。アンと俺は抱き合う。

「……」「……」

視線が痛い。何故だ。

後ろを振り返ると、アンジェとミナヅキが俺を睨んでいた。

アンは先ほどの可愛らしい笑みを凍らせたまま、二人に微笑み返した。

何故だろう。何故か胃が痛い。



 「チーア! 」「チーア! 」「チーア。待っていましたよ」

神官長カレン持祭ジェシカ司祭モニカ。この三人がそろっているってことは。


 「結核は沈静化しました。お手柄ですね」

高司祭さまが微笑んでいる。俺もニヤリと笑い返す。

「まぁその。ご迷惑かけました」そういって皆に頭を下げる。


 「大迷惑です」カレンとジェシカが苦笑して俺の頭を軽く小突いた。へへ。

「死ぬかと思ったわ。患者さん増えすぎ」疲れきっているが充実した笑みをモニカが浮かべている。


 「王から褒章が出ていますよ。チーア」

「う~ん。目立つのは嫌いなので、高司祭さまがもらっておいてください」

「結核がどういう病気か、知らないわけではないでしょう? チーア」

……えっと。ジェシカ。


 「ジェシカ。結核の治療法をめぐって大人の政治だのなんだのに巻き込まれるんなら俺、嫌だ」

結核は亡国病とも言われるほどの病であり、結核で滅んだ国はかなりの数になる。

「ハァ。言うと思いました。トーイ様の弟君ですからね」兄貴もそういうの嫌いだったしな。

ニヤリと笑うジェシカと腕を組んで御互いニヤリ。

正直。ジェシカは嫌いじゃない。


あれ? なんか、にらみつける視線が三つに増えた気がする。



 対策がわかれば一人一人治して隔離を繰りかえし、鎮圧も出来なくはない。

「かかっていない人から他人にうつる」のがわかったのは収穫である。ほかのヤバイ伝染病にも応用が効く。らしい。


 さて。俺はカレンとジェシカとモニカ、高司祭さまに微笑んだ。

「嫌われ者の不良はそろそろ消えます」


 激しく口論を始める下級神官二名と戦神の司祭を尻目に、俺は慈愛神殿を後にした。

冬の風が、何故か気持ちよかった。

冬といえば、あの雪女元気かな。


 曇天に微笑みかけると、誰かに微笑まれた気がした。

まさかね。冬はクソ寒いが、今年の冬は特に空気が澄んでいて心地よいと思った。

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