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7 かかったのを治すより、罹(かか)らないほうが断然良い

 「私、なんともないんだけど」「患者はあの二人でしょ? 」うん。でも必要なんだ。

「わかったわ」「うん。チーアには私がかける」ありがとう。

不思議そうにしている精霊使いたちだが、素直に術をかけてくれた。


 うん。やっぱり身体が軽くなった。つまり。

「れれ? 」「……」「……」

フレアとシルバーウインドが俺をじっと見ていた。


 不思議そうな二人に俺は解説する。

「たぶん、俺達は彼女達と接触した時点以前に。『元から病気にかかっている』んだよ」


 「??? 」「???? 」

ああ。エルフは毒も病気もきかないからイマイチわからんか。

前もこんなことがあったな。


 「ほら、毒をくらってもエルフにはきかないだろ」「ええ」

シルバーウィンドだって例外ではない。


 「じゃ、病気をくらっても、病気にならない。じゃなくて効いてない。って考えれないかな」

「斬新な発想ね」「だねぇ」二人は不思議そうな顔をしている。


 とあるドワーフの村にいたときの話を二人にする。

そのときも毒はその村のエルフにきかなかったが、毒そのものは彼女の身体に残っていた。

つまり。


 「私達が、原因になるってこと? 」

結核はすぐに発病せず。患者と接触をした人間が結核を移して回る。

「そうだ。病気が効くまでに少し時間があるって発想さ」


 加えて、結核で衰弱した身体は、再び周囲の人から結核を『移されて』、

再び結核に取り付かれて、同じ症状を続行する。

一時的に『治って』いたのはそういうことだと考えたのだ。


 なら話は簡単。

『移さない』ように密閉した部屋に閉じ込め、病気の元になる『うつる原因』を根絶し、

栄養を与えて、症状を改善させれば。


 「勝手に治るの? 」「まぁ、一応、カビから作った特性の薬を使うが」

「うげえええええ。カビっ??! 」フレアがドン引きしている。俺も最初引いたから理解できる。


 「カビは人間には毒ではなかったかしら? 」シルバーウインドが眉をしかめる。

ボディランゲージの習慣がないエルフの癖に、彼女は妙に人間的な仕草を見せる。


 まぁ、適度な量なら問題ない。

劇的に効くんだが、使いすぎると効きにくくなるらしい。変な薬だ。


 「『うつる原因』がわからないんだけど」フレアが不思議そうにしている。

「俺もわからん」

マジ。わからん。そういうと二人はメッチャ呆れていた。


 「いい加減ね」シルバーウィンドがあきれる。

「しゃべってるとうつる」って言うから、口元に布をつけるのが有効だろうと判断した。

「隙間風があるとうつる。もしくは風邪を引く」っていうので、とりあえず暖かい部屋にした。

前に変態医師が「うんちや水やおしっこが地下水に混じって井戸に混じり、最後に病気がうつる」って言ってたので、

それらにも『浄水』をかける。

「触れたらうつる」っていうなら患者に触れている部屋や服やベッドを綺麗にし、『浄水』や『空気清浄』をかける。


 「そーすれば治るんでね?」「……」「……」

「あのさ」フレアがあきれたようだ。

「トーイと兄弟じゃなかったら、その提案は通らなかったわね」シルバーウィンドはため息をついた。

まぁ、確かに。しかし、話はそれだけではない。俺はメイからもらった薬湯を取り出す。


 「あえて無毒化した結核にかけるという魔法の予防薬だ。二人とも呑むこと」

二人はメイの薬と聞いて心底嫌そうな顔をしたが、俺は無視した。

「あと、今手続きしたから、二人とも服を洗って、着替えて、風呂にも入ってくれ。

慈愛神殿の誇る『石鹸』の威力を堪能してくれてかまわないから」

少々手続きが前後したが。まぁはじめてだしな。

病人に風呂は余りよくないが、今のところ発病していないから問題ないはずだ。


 外ではロー・アースとファルコをはじめとする『五竜亭』の冒険者たちと、

なぜか知り合いのヤクザ一家が神殿の修理や掃除をやっている。

「隙間風の原因は徹底して埋めろとか言われたが」「必要らしいぜ」


 「おい、グローガン。藁と漆喰の配合はこんなもんか? 」「下手糞! 俺がやってやるよ! 」

「あ~もう。手首の返しが甘いぞっ! ロー・アース! 」「ファルちゃーん。こっちにお茶! 」

「ああっ! もう! 土と藁だっ! お前ら! なっちゃいねぇ!

後から漆喰で固めて仕上げだっ!! 冬は暖かく! 夏は涼しく! 」

「お前、大工になれるぞ……」「石工だっ!! 」

ほんと、アイツは堅気になったほうがいいよな。器用だし。


 「こんなもんっすか? 」「いい感じだなっ! 筋がいいぜ! 」「おー! やっと褒められたっ! 」

「はん! 褒める時は絶賛しておいてやらんとなっ! ……後でコッソリ治せばいいし」

「そ、それ、本音を言うなよっ??! 」「あははっ!! 」

あいつグローガン、マジでヤクザよりカタギやったほうがよかね?


 「洗った水や拭き掃除に使った水は絶対そこらに流さず、『浄水』をかけてください!

口元の布は『お話をするだけでうつる』病を他人に移さない措置です。息苦しくてもはずしたりずらさないこと! 」

アン、お前はいい監督になれるぜ。


 応援を頼んだアン以下の戦神神殿のみんなも頑張っている。

何人か倒れたが正義神殿と交渉し、正義神殿でさっき二人を入れた部屋と同じ処置をしてもらっているところだ。

知識神殿や商業神殿には受け入れを拒否された。あの薄情者どもめ。


 「豪華すぎて落ち着かない。戦神神殿のほうが嬉しい」と戦神神殿の司祭たちに抗議されたが、

質実剛健オンボロを是とする俺達慈愛神殿や戦神神殿と違い、清潔さや気密性は正義神殿のほうが豪華だ。


 「話をするだけでうつる」理屈はわからんが、

隙間風が外に漏れたり外から隙間風入ったりがヤバイのだけはなんとなく理解したしな。


そして。日は流れた。

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