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6 愛している。でも私に顔を見せるな

 「こないでっ!! 」枕が俺に飛んできた。

「二度とこないでって言ったじゃないっ!!! 」

泣き叫ぶアンジェに思わず言葉をかけることが出来なかった。


 「チーアにキスもできないっ! お話もできないっ!

だってうつっちゃうもん! うつしたくないもん!! 」

 幼い顔に涙を浮かべるアンジェ。


 「お姉ちゃん。げんきかなぁ」

ミナヅキは虚ろな目をしている。いつもの元気さはない。

はぁ。


 「……!!! 」

アンジェを取り押さえて、額にキスした(唇には失敗した)。

唇を通してアンジェの戸惑い、悲しみ、俺への偽り無い愛情が濁流のように流れ込んで。

触れることさえ出来ない境遇を恨む気持ちと、俺の唇が触れる喜びと俺に移るという恐怖。

結核にかかったことで俺を恨む気持ちと、そんな気持ちを持つ自分への嫌悪に悩む彼女の心に。

触れてしまった。


 「うあああっ!! 」アンジェはすごい力で俺を投げ飛ばす。

「ばかっ! ばかっ! うつっちゃうでしょっ! こないでっ! 二度と来ないでってっ! 」

「ホント、莫迦だねぇ。チーアって」いまさら何を。二人とも。


 「今から、治療する」

「毒消しまでしかできないチーアが?? 」ああ。アンジェ。


 「チーア。あのさ。あんまり言いたくないけど。

先代の最高司祭さまの弟さんだからって好き放題しすぎ」

そうだな。ミナヅキ。その通りだ。許せとは言わんよ。


 その時、不思議な風が室内に入ってきた。

神秘的な雰囲気の美女が室内に立つ。絶句するアンジェとミナヅキ。


 「本当に、人使いが荒いわね」

人じゃないだろお前は。シルバーウィンド。

「結核とか。もうね。私はパスって言ったんだけど」フレア。お前は服着ろ。何処だと心得る。

部屋に入ってきた半裸の少女と半身を火傷に侵されたエルフの乙女を見て。


 「エルフ?!! 」

「珍しいかしら? 」驚くミナヅキに微笑む『ぎんのかぜ』。

珍しいと思うぞ。俺も『ぎんのかぜ(シルバーウィンド)』以外の知り合いはエルフにほとんどいない。

身体の半分を占める大火傷の痕。

火傷に覆われ片目を失っている顔の半分をその美しいアンバーの髪で隠している『ぎんのかぜ』だがその美貌はそれでも遜色がない。


 「『完全なる癒し』は本当に不要なの? 」

『シルバーウィンド』ことエルフの『ぎんのかぜ』と精霊使いのフレアは不思議そうにしている。


 「ああ。まずは調整だけだ。症状を改善してくれ」

『完全なる癒し』は毒も病も致命傷も癒す精霊の技だが、

エルフの乙女や女の高位精霊使いにしか使えないとされる。


 「セキ、よくなった」「私も」

そんな二人に目元で微笑むシルバーウィンドとフレア。

二人とも変な布を口元につけていて、美貌が台無しだが。

「アンジェ、ミナヅキ。二人ともこの布を口に。息苦しいからってはずすなよ? 」


 「じゃ、気分転換に掃除でもすっか」

俺は笑って見せた。シルバーウィンドとフレアは嫌そうな顔をしたが無視。

掃いて(二人が『空気清浄』の精霊術を使ってくれたので捗った)、天井まで拭いて、その雑巾は二人と一緒に『浄水』。

アンジェとミナヅキのトイレはこの部屋に隣接していて、外に出る必要はない。

そして、この国のトイレは下水道に直結していて、地下の謎の小人達が綺麗な水にしている。

もし、下水がないならこちらも『浄水』が必要だったが、こまめに水をかけて流すようにアンジェには頼んだ。


 「アンジェ、ご飯だ」今日は腕によりをかけた。

「わぁ?! 」「チーアのご飯、女の子が作るご飯より美味しいよね」女だもん。


 二人とも嬉しそうに食べだす。うん。がんばって作った甲斐があった。

「あのね」「私達は? 」フレアとシルバーウィンドは冷たい目で俺をにらんだ。


 「こまめに掃除にくるが、間違っても部屋から出るな。鍵かけておくけど、開錠すんなよ。特にアンジェ! 」

ビクッ! となるアンジェに言う。

「おまえら二人、ここぞとばかりに抜け出して遊びまわってるだろ?! 」

ほぼ確定である。そんなもんで治るかっ??!!

「だってさ。暇だし、誰も来ないし、追い返してるし」うっせぇ!!??


 「『部屋から出るなよ? 約束を破れば……。

『ウソをつくと小粋なタップダンスを踊りながら受け答えする』祈祷をカレンにかけてもらうことにした」

 「……」「それはものすごくヤダ」

毎回毎回思うが、カレンは普段の行動と契約祈祷の内容に差がありすぎる。


 さて。と。

部屋から出た俺は二人に頼む。

「『完全なる癒し』を俺達三人にかけてくれ」

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