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5 微妙な未病

 「難しいですね」スラムの変態医師は苦笑する。

俺の知っている名医といえば兄貴を除けば彼とメイだ。

あと、今日は何故かいない『破壊の女神』の闇司祭の女。


 この医者。名前はトートと言う。

ウンコを煮たり焼いたりとはっちゃけた研究ばかりしているが、腕には定評がある。


 「結核は。むずかしいですね」トート先生は解説する。

治した瞬間に罹患、改善する見込みがないとされる結核は悪魔の病気とされるが。彼なら何か。

「衛生の概念などから言って、この世界で結核を根絶することは難しいと判断します」そこを何とか。


 「こんな汚い部屋に住んでいるのに、何が衛生かね」メイが苦笑いする。

あまりの臭さに倒れそうになったのでメイは機嫌が悪い。

アキは病人の母を俺達が連れ出すと聞いて付き添いを申し出たが、メイが断った。仕事してろということらしい。


 「まぁ、口の減らないお方ですねぇ」トート先生は頭を掻く。

「とりあえず、口元にこの布を。ああ。部屋の匂いがつかないように配慮しています。ご安心を」

まぁ臭いしな。遠慮なく貸してもらうぜ。俺達4人はそれを口元につけた。


 「結核は治せないね」メイ本人が犯されている立場だからそういう結論になる。

「でもチーアさん達は一瞬だけ治したみたいですよ? 」トート先生は楽しそうに笑う。

 「またホラふいてるのさ」メイはそう言った。とりつくしまもない。


 確かに、元気になった。筈なんだが。

そう悩む俺を見守るトート先生。


 「チーアさん。どうやって治しました? 」

トート先生の視線が俺を射抜いた。


 「え~と、先生から頂いたカビから作った薬と、

栄養剤として例の藻から作った豆もどきを与えました」

「余計悪化しそうなんだが」メイが顔をしかめる。


あの藻はウンコを水に溶かして光の魔法を当てて育てるのを彼女は知っている。


 「ふむ。適切ですが。それでは改善はないですね」そのはずだ。

「あんまりんにもきたなかったの! でね! 僕らは口に布をつけて」

そう。ホコリだらけだったもんな。


掃除して、徹底的に拭いて、何度も『浄水』でバケツの水を綺麗にして。

ついでに隙間風だらけの家も治して。


 なんとなく、口に布をつけたまますごしてしまったが、

家が治るころには症状の改善が見られるようになった。


 「あと、体内の精霊の力の調整を少々」

「ふむふむ。その辺は門外漢ですね。私もメイさんも」

治すには至らないが、風の精霊の力を抑えてセキを止め、火の精霊の力を抑えて体温を調整し、

命の精霊の力を得て少し元気にして、精神の精霊たちに訴えてリラックスさせる。

精霊の言葉が使えれば誰でもできる。はずだ。


そして、俺達があの家を去ってからまた彼女は結核になった。マジで。悪魔の病だ。


 チーア君。ファルコさん。ロー・アースさん。メイさん。

トート先生は黒い壁に白い墨(?)で何か書き出した。


 「では。状況を」


「1.チーア君の癒しの奇跡の力はいまだ未熟であり、病気を治せない」うん。


「2.よって、精霊力?の調整なる技を行い、症状を緩和させる措置をとった」

ああ。精霊使いなら誰でもできる。治すには至らないが。


「3.付き添いで来た、ファルコ君、ロー・アース君は暇つぶしに部屋の掃除を行った。

そのときから惰性で三人は『布を口元に当てつづけ』、家の掃除を徹底。

拭いた布、洗濯物などにいかなる汚れもなくす『浄水』を試みた。飲料水も同じ。でいいのでしょうか」

です。先生。俺が首を縦に振ると彼はにこりと微笑んだ。


「4.隙間風だらけの家を治した。ついでに暖かくなるように藁を混ぜた漆喰を塗ってあげた」

 あれはロー・アースもファルコもいい仕事してたな。マジで。


 「そんなので治るのか?」

私の薬湯でも治せないのにとメイは疑わしげに俺を見る。

「メイさんの薬湯は魔法の薬湯でしたっけ」「そうだが? 」

単純に魔法より利く薬湯だと思ってたが。魔女だったのか。


 ふむと先生は考え込んでいる。

「魔法は、『病気を消す』ことはできますね」うん。間違いない。アンもそういってた。

「症状は改善しますか? 」はい????

「い、いや、あとは自然治癒や栄養を取ったり、身体が欠けるような病なら癒しの魔法を」

少なくとも慈愛神殿ではそういう措置だ。


 「びみょう! 」

なんだよ。ファルコ。うっさいな。

「微妙? 」「うん! 」ロー・アースの問いかけに彼は首を振る。

「あのね。病気になる前をびみょーというってミリオンがっ! 」

ミリオン。ファルコの親父である。見た目は髪の色くらいしか違わない。


未病みびょうだろ」「そうとも言う」おい。しっかりしろ。


「病気になる前に、体調が悪くなるってやつかい? 」メイが不思議そうに言う。

「うん! 」ファルコは楽しそうだ。


 「(キスしたり。お話したりするだけでうつっちゃう)」

童顔のアンジェの大人びた顔が目に浮かぶ。


 あれ?? 今なんか。思いついたぞ?

未病。体力が衰えて病気にかかりやすくなる状態。


 「チーア? 」「チーア君? 」「どうした? 餓鬼? 」「ちいや? 」

皆が俺の顔を見ている。う~ん……。


 チーアのこと。大好き。だけど。キスもお話ももう駄目。嫌になっちゃうな。

アンジェのことを考えてる場合じゃないだろ。俺。クソ。


 『お話しただけでうつっちゃう』

『近くによることも。触れることもできない。先にチーアの童貞を奪っておけばよかった』

あ。うん。まさか。


『お話しただけでうつっちゃう』

『お話しただけでうつっちゃう』

『近くによることも。触れることもできない』

『近くによることも。触れることもできない』


『暇だから掃除するの! 』『隙間風だらけだ。これでは結核以前に風邪を引くぞ。修理してやる』


『病気になる前に身体が弱って病気になりやすくなるのを未病という』

『魔法は病気を消すが、改善は別問題』『精霊力の調整を行い、症状を緩和させた』


まさか。まさか。


「メイさん。俺たちに病気を治す薬湯を飲ませてくれませんか」 

分の悪い賭けだが。やるしかない。



 「メイさんの薬、まずい」ファルコが泣きそうな顔をしている。

「まぁ、二度と呑みたくないようにしているからな」ロー・アースも口元をゆがめている。

「そうですか? もう一杯お願いしたいのですが。メイさんのような美女から頂く薬湯は格別ですねぇ」

先生、あんた頭もヤバイが味覚もオカシイ。


 「頼まれたから作ったが。結核にかかっていないじゃないか。餓鬼どもは」

うん。そうだ。そうなんだが。『見た目は』

「なんか、からだが軽いの」ぴょんぴょん跳んだり跳ねたりしているファルコ。


「おい、この布いつまで口元につけないといけないんだ? 」

はずすなよ。ロー・アース。


確かに、病気を治す祈祷を受けると前々から身体が一時的に軽くなる気がしていたが。これは。


 「病気よけの薬湯って? 」ファルコが不思議そうにしゃべってる。

「ええとだな、病気になっている人の病気に対して。アキの場合結核だが。

あえて無毒化した病気に一度かけることで、病気にかかりにくくする魔法の薬湯だ。

もちろん、かかってしまってからは効果がない」

 メイの解説、面白いな。無毒化した病気にあえてかけるなんて。発想が逆で。

「ほう。この世界にもBCGと同じ発想を持つ天才がいるんですねぇ」???

トート先生は時々わからないことをいう。


俺の仮説が正しいなら、アキには悪いが。メイの病気が治らない原因は。


 よしっ!!!!!!!!

待ってろ。アンジェッ!!!!! 今すぐ元気にしてやるからなっ!!!

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