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4 勇気とは己にとっての一番の恐怖を知ること

 「アンジェ。大丈夫か? 」

真っ先に倒れたのはこの娘だった。俺の親友でもある。


「あ~。駄目駄目。移っちゃうから」この同僚からすれば、俺は恋人(?)らしいのだが。

「お話しても駄目~。触っても駄目~。キスしても駄目~。あ~あ。やになっちゃう♪ 」

彼女はスキンシップが好きだ。ベッドに寝込み、苦笑いを浮かべる同僚。

すまない。アンジェ。


 「う~ん? 私、チーアの味方だもん。これくらいどうってことないよ? 」

幼い顔だちだが、どこかで幼さをなくした顔を見るのは辛い。

「あ~あ。結核になっちゃうんなら、無理やりチーアの童貞奪っておけばよかったなぁ♪ 」

あはは。


 「あ。笑った♪ 」アンジェはにっこり笑った。

「アンジェ、この阿呆の所為で」俺に一番協力的だった彼女は一番頑張り、そのまま倒れた。

「アンジェねぇちゃん。あのね。お花もってきたの」「うん。ファルちゃんありがとう」


 「ごめん。二度と来ないで」

去り際に、アンジェは呟いた。済まない。


……。

………。

 「解決。できそう? 」戦神神殿から派遣されてきた娘が俺に声をかける。

「アン。だったっけ」名前はうろ覚えだが。若いが高司祭級の力を持つらしい。

戦神神殿も使途の質が高い。もっとも、絶対数が少ない。


 そう。そういってアンは俺達の隣に座る。

「人生は之戦い。永遠に続く闘争である」彼女は戦神の教えを呟く。


「ずっとたたかうの? つらいの。こわいの。しんどいの」

ファルコが泣きそうな顔でアンを見る。


 「ファルコさん。その嘆きを胸に人は立ち向かうのです。

ファルコさんにとってもっとも怖いモノ、失いたくないモノを見出してください。

そして、『勇気』を振り絞ってください。始まりの剣士のご加護あれ」

『始まりの剣士』は正義神殿や戦神神殿では神の化身という見解を持つものが少なくない。


 「病との闘いもそう。根絶したと思ったらまた出てきて」アンは寂しそうに微笑む。

「私の両親も結核で亡くなりました」……。


 「祈祷で治せるって。知って」

治せても、即座に結核になる。とわかって更に絶望したと彼女。


 「チーアさん。もし結核が治せるなら」

うん。たぶん、それはすごいことなんだと思う。


 うーん。うーん。とファルコはうなっている。腹でも痛いのかな?

「おい。ファル? 」「うーん? 僕こあいのあったっけ? 」……。

「エイドさんが笑うとき? 」思わずそういってみる。

「高名な『五竜亭』の店主さんですか? ふふ」「ちょっと違うの~」

思わず笑いだす俺たちと、真剣に抗議するファルコ。むきになるファルがちょっと可愛い。


 「私は、両親が過労と結核でなくなったときですね」アンは苦笑いする。

「身内を幼くして亡くす悲しみをほかの人に味あわせたくなくて、

そのまま、戦神神殿で司祭を目指すことになりました」

……。


 「俺は……もう死んでいるな」

ロー・アースは苦笑いした。「? 」不思議そうな俺とファルコに皮肉な笑みを浮かべる。

「失いたくないものを失って、あとの人生はオマケかな」そっか。


 「ろうはね。いちばんいっしょうけんめい戦うの」

うん。彼は恐怖を感じないかのように戦う。


 「そうでもない。やっぱり怖いさ」

そういえば、俺は彼のことを知っているようでほとんど知らない。


 「本当に大切で、失いたくないものを知ることは。自分の胸の奥にあるのです。

内なる輝きから目を逸らさず、まっすぐに自らを見る。恥も苦しみもすべて受け入れて。

戦神は常に皆様の内なる戦いを見守って下さっています」


 説教はわからんが、なんか気が楽になったかも?

あんなクソおやじや放浪癖の馬鹿兄貴でもいないと寂しいし。


 「ね、ね。僕、すっごく長生きしちゃうかもだけど、みんな友達でいてくれるかな? 」

思いついたようにファルコが呟いた。


 そういえば、俺たちって不老だし、寿命も確認されていないんだったっけ。

務めて考えないようにしていたが、もし世界中の命が絶えても放浪していたら。


 「いんや、どうせおまえは好奇心でしょうもない罠でも『ぽちっ』と作動させて死ぬだろ」

そんな俺の恐怖を、ロー・アースがファルコへのチャチャで濁してしまう。思わず笑ってしまった。

確かに、ファルコらしい死に方だ。


 「ひど~い!! 」

ファルコはぷんすかしている。

「働いて、働いて、結核に犯されて、それでも働いて」弱って死んでいく。

何のために、人間は生きるんだろう。病気になって、死ぬため。なんだろうか。


 「そういえばメイさんも結核だったな」ロー・アースは小声でつぶやく。

メイは『五竜亭』の住み込みウェイトレスのアキ・スカラーの母だ。

見た目は年増盛りの20代半ばだが、実は40前。猜疑心の塊のようなキツイ目をした美女である。


……。

 ……。


 「結核を治した? 馬鹿いってんじゃないよ」

相変わらず口が悪い。アキの私室のベッドに座るメイ。

「あたしだって治したことはないんだ。癒しも未熟なお前みたいな餓鬼が。ねぇ」

メイは薬湯つくりを得意とする。たしかに俺より優秀な医師と言える。


 「私、母さんから結核よけの薬湯もらってる」アキが補足する。うーん。

治しても、治しても結核は即座にその症状を発揮し、患者の体力を奪っていく。

一応、ものすごい感染力を持つことはわかっているし、栄養を取って休むのが良いとはされているが。


 「メイさん。本日はお願いが」ロー・アースは頭を下げる。

メイはロー・アースを気に入っている。彼が来るとわかると即座に化粧をはじめて胸に詰め物をする程度には。

「結核を打ち砕くために力を貸してください」

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