3 瞳に溢れる星々よ。私の願いを叶えてください
「とはいえ、もう皆」
癒しの力を使いきり、バタバタと倒れる司祭達。
患者の世話で心身ともに気力を使い果たし、次々と結核に倒れる同僚達。
ほかの難病や怪我を抱え、治療が行き届かず、苦痛の声を上げる患者達。
戦神神殿にたまらず協力を要請したが、彼らとて無事ではない。
ちなみにに知識神殿には使途の数が足りないと断られ、
商業神殿には同じく貴重な使途をよこすのだからと見返りを求められた。
正義神殿とは折り合いが悪いのもあるが(年に何人か仲間が斬られている)、
かの神殿の『使途』は許可がないかぎり奇跡は使えないことになっている。
というか、あそこの連中は病気は祈祷で治して終わりなので役に立たない。
司祭といっても女神から与えられた癒しの力には個人差がある。
大雑把に言えば毒が消せれば司祭。呪いを砕けるなら高司祭。
病気はちょうどその間。
「女神様。私に病気を癒す力を授けてください」司祭の一人の嘆きを聞いてしまった。
「もう。無理ね」
ゼェゼェと息をつく美女。司祭のモニカだ。
「モニカさま。もうお休みに」「もう一人、いけそう。私に気力を分けて」
神官は簡単な傷の治療を一日一回、個人差で数回。もしくは気力を他人に分ける祈祷が使える。
魂の気力を分け与える祈祷を使い切った少女は崩れ落ちる。死にはしないが、半日は動けない。
「病を。癒したまえ」
モニカの掌が結核を退けるが、三日と経たずに患者は舞い戻ってくる。
ズボンが何かにひっかかっている。
足元を見ると冒険仲間の相棒であるファルコ・ミスリルが俺の足を引っ張っていた。
「なんでちいやは結核治せちゃったんだろ? 」
俺を神殿の廊下に連れ出したファルコは首をかしげる。
知らん。勝手に治った。そしてまたかかった。なんて厄介な病だ。マジで。
「女神様の加護でしょうか。黒髪黒眼の半妖精は神の御使いと申します」
いつの間にかいた侍祭のジェシカが投げやりに呟いたが、俺は首を振った。
「チーア。お前って病気を癒す祈祷は無理じゃなかったか? 」毒はいけるんだがな。
「ああ。無理。使途の力には個人差がある」「なんで治った? 」
知るかボケ。
ロー・アースがからんできてうるさい。
あの場には彼とファルコもいたが、二人とも結核にはかかっていない。
「あのね。同じことしたら、治らないの? 」ファルコは真剣な顔で俺を見ていた。
一回治ったからって、また治るわけでは。そういいかけて黙った。
「俺達は? 」
ロー・アースは小声で呟いた。
「「「『夢を追う者達』だ」」」
「疫病神とうわさされるな」俺はため息をついた。
「余計なこと言わないの」ファルコが口を尖らせる。
「どんな願いも、叶える。か。流石に今回はお手上げだがな」
ロー・アースはそう呟くと、神殿の床に座り、やる気のない瞳で空を見上げた。