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2 地獄とはこの世にある。死者の国には存在しない

 「ああああっ??! なんでこんなに忙しいんだっ!! 」絶叫する俺に。

「お前の所為」「なののっ! 」冒険仲間。相棒であり、今回手伝いを頼んだ二人が突っ込む。


 神殿の前にあふれた結核患者の群れ、群れ、群れ。

王国中から集まってるんじゃねぇかっっ?????!!!!!!!!!


 「ジェシカ様。ごめんなさい」「……」

力なく呟く少女の手を感染の危険を顧みず強く握り締めるジェシカ。


 俺は彼女にかける言葉もロクに考えられず、口から漏れた言葉は。

「ミナヅキ。すまねぇ」「そうね。一生恨んであげる。おねえちゃん。後は。ごめんね」

そういってはかなく笑うミナヅキ。結核は一生治らないとされる。

担架たんかを使って、ミナヅキは神殿の奥の隔離施設に搬送されていく。


 「ミズホ」彼女の双子の姉に声をかけようとしたが。

「女神様っ!! なぜ妹なんですかっ! せめて私にしてくださいっ!!

私たちから両親や友達を奪ったことはもう恨んでいませんっ!

だからっ! だからっ! 妹を助けてっ!

……私に、私に。……癒しの力を……ください」


 素行が悪すぎて昇格できない俺やアンジェ(二人とも昇格に興味がない)はさておき、

下級神官には癒しの力はない。女神は気まぐれだ。

俺みたいなやつに加護を与えたかと思えば、まじめな下級神官にその力を与えなかったりする。


 「連れていくの」ファルコが厳しい顔で俺の脚を蹴った。

「すまねぇ」「貴方のせいっ!! 貴方のっ!! 」

ミズホは俺を呪いながら俺とロー・アースに引きずられていく。


 結核は次々と感染する。俺達も危ない。

「どんな毒も病気も治せる」それが俺達慈愛の女神の使途の定評だ。が。


 「癒しの祈祷は魂の力を削るのです」

まず死にはしないが、気力をごっそり持っていかれる。使いすぎると倒れる。

だから、俺達慈愛の使途は代々、薬湯や補助具、切除などの技術を磨いてきた。


 「で。この阿呆が」うん。

「治しちゃったのね。結核を」そう。

「こうなることは予測していたのですが」カレンが嘆く。

神殿の前に集まる結核患者たち。治しても治してもキリがなく、治した患者がまた神殿の前に立つ。

バタバタと過労と結核で倒れる下級神官や神官の同僚達。まさに地獄だった。


 「でも、治ったよ? 」ファルコが不思議そうな顔をしていた。

「あの子のお母さんがまた結核にかかって運び込まれたのでチーアが癒したと判断しました」

カレンとジェシカはため息をついた。古株二人にとって思うことの多い病だ。

祈祷で治しても治しても即座に結核の症状が現れ、どうしようもないと。


 「だから、『結核は治せない』と」

あきらめることになった。『どんな毒も病も治す』俺達の敗北宣言だった。


 「チーア。なんとかならないのでしょうか」

ジェシカとカレンは分厚い雲に覆われた空に向かって呟いた。


 「兄貴だって結核は治せませんでした」そう。彼は旅立った。そしてまだ帰ってきていない。

「どんな夢でも叶える冒険者、『夢を追う者達ドリームチェイサーズ』なら? 」

上をむいて耐えていたカレンの瞳から涙が零れた。


 「もちろんなのっ! 」ファルコがまた安請け合いをする。

「微力を尽くします」ミナヅキだけではなく、親友に等しいアンジェも結核に倒れた。全部俺の所為である。


 「美しい貴女達の瞳に映る宝石にかけて」

ロー・アースがキザな台詞を吐いた。


 「泣きたいときに我慢して上を向いてるとね。目が見えなくなるの。

でもね。涙の泉に星がたまっているの~」

よくわからないが、ファルコの言いたいことはわからんでもない。


 つかつかと言う足音。この音は良く知っている。

「私からもお願いします。チーア。責任を取りなさい」高司祭さまだった。

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