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1 説明しなさい。

 また。扉が開いた。

俺は驚いた。熊があるいてるじゃねぇか。

熊とおもったら人?らしい。


 ……ドカドカと入ってきた巨大な男は大穴の開いた床を見て驚いている。

青年二人とグラスランナーの乱入で、少女は救出され、ヤクザもの連中は座標未設定の『空間転移テレポート』ではるかかなたに吹き飛ばされ、その代償に開いた大穴である。


 やらかしたのは俺らではないが、熊のような大男は獰猛な笑みを俺達に向けている。

いまだ顔色の悪いアキに事情を聞いた彼は俺達を一瞥すると口を開いた。

(彼女の明るさは虚勢らしい。気の強い娘だ)


 「ほう。ガウルやミリオンの子か。ロー・アース。面白い仲間だな」

ロー・アースとやらはこの熊の知り合いらしいが、いい出逢いとは言いがたい。

ロー・アースと名乗った奴は「別に仲間じゃないが、さっき逢った」とだけ応え、エールを飲む。


 「妙に、ヤサいな。というか、女に見えるぜ」

ズカズカと歩いてきた熊みたいな大男は俺のあごをつまむと、

俺の瞳をニヤニヤ笑いながら覗いた。


 「ペッ!」

血に混じった唾を彼に吐きかける。


 ひょい!と彼は至近距離からの唾をかわした。

「……はははっ!流石ガウルの子供だっ!!??」何処が面白いんだ?まったく。


 「俺は。

エイド。エイド・ファイブドラゴンズ。この店の主だ」

「俺はチーアだ。覚えておきやがれ」にらみつけてやる。


 「ぼく、ふぁるこみすみるなの」

「……ミスリルだろ」「そうともいう」

小さな妖精に注意を向けた彼は急に戸惑った表情を浮べ、しゃがみこみ。


 「……イーグル?」

「ひぇ?」涙目になるファルコ。

「イーグル???」「ううん。ファルコなの」

ふるふると首をふるファルコ。


 「……似ているな」

狼狽を隠せない熊男。


 「この子くれ。ミリオン」

なに言ってるんだ? この熊??!!

騒ぎを聞きつけて見物していたらしいガキ(じゃなくて、妖精らしいが)二人のうち一人に言うエイド。モノじゃないんだから。


 「エイド。その子はもうひとり立ちしたの。あとは彼の問題」「ふむ」

小さな黒髪っぽい髪の子供は楽しそうにそう応えた。

対照的に栗色の髪の女の子は「うちの子です!」と言い張る。


 「ううん。僕ね。ファルコなの。イーグルじゃないの」

ファルコは遠慮がちに応えた。


 「だからね。子供にはなれないけど、友達ならいいよ?」「ぷっ?!」

「……流石。あのミリオン・ミスリルの子だっ?!豪胆だなっ!将来が楽しみだっ!!」

エイドは大笑いする。


 「で、こっちはヒョロヒョロのチビか」

「うっせぇ。あっちファルコよりはデケェよ」ムカつく。

「……ドライアドの子供か。親父に似なくて良かったな」

それは女性として心から思う。親父には悪いが。


 「で、この惨状は」

エイドは大穴が開いた床をみてため息。

「伯爵家のガキの仕業か」

「うん」「そうだ」「その通り」「なの」「そうよ」「そう」

俺たち三人と、いつからか見ていたのかグラスランナー二人、アキが証言する。


 「まぁ仕方ないな。この件は保留だ」はぁ。

「今夜は貴様らの歓迎会だ。好きなだけ食べていいぞ」はい?

 「わーい!」純粋に喜んでいるファルコと名乗った子と黒髪のちいさな子。

嫌そうに眉をしかめる栗色の髪のちいさな女の子。


 「俺。水貰いに来ただけなんだが」

なんで歓迎なんだよ。

「水?酒だ酒」未青年に呑ますな。


 「俺はエイドさんに歓迎される覚えはないんだが」

ロー・アースと名乗った男は遠慮がちに呟く。

「あ?問題ない。寄っていけ」いちいち威圧感のある熊だ。


 「ロー」

アキが店の奥から出てきた。古びた革鎧と青いマントを抱えて。


「売りに出したはずだが?」

ロー・アースは戸惑った声をあげる。

「……ごめん。保管してたの。きっともう一度着てくれるって思ってたから」アキはそういった。


 「俺は、もう着ない」

「……へぇ?」アキは挑戦的な笑みを向けた。

「修理代。銀貨10万枚ね」「……ワイズマンに言えよ」

ふふふ。アキは笑う。


 「伯爵家の跡取り息子様は、

『今日は自室で勉学に励んでいた』そうよ?」

「あんにゃろう……」

なんじゃそりゃ???!


 ファルコと名乗ったグラスランナーは

アキとロー・アースのやり取りに首をかしげている。

しかし、何故にテーブルに正座。あ。栗色の髪の女の子に叱られた。


 「どういうことだ?」俺はアキに質問をぶつける。


 アキはそれに応えず、意味ありげに微笑むと給仕にもどっていった。

「アイツはこの店で女がらみで大喧嘩しやがってな。

火球爆裂ファイアボールをぶっぱなして店ぶっ壊して、

伯爵家から詫び状と修理代を頂いたのだが」エイドが説明する。


 「そのとき、一緒に火達磨になった俺まで頭からカミナリを伯爵殿から」

ロー・アースが続ける。

……。


 「つまり、親父に叱られたくないから黙秘?」「そうなるな」

俺の質問にあっさりと答えるロー・アース。あんの野郎っ??!!


 カラン。

扉が再び開く。

俺の怒りは扉を開けて入ってきた女性を見た瞬間にそれてしまった。


「イーグル?」

金髪碧眼の綺麗な女性だ。若い。俺より少し年上程度。

荷物を取り落とし、ファルコにゆっくり近づくと膝を落とす。


 「イーグル?何処に行ってたの?」

ファルコはゆっくり首を振る。

きゅっとファルコを抱きしめる女性。

「何処行ってたのよっ!お母さん心配したんだからっ!!」


き、既婚者???!ってか経産婦??!!!!!!!


 ファルコを叱ろうとする彼女の手をエイドが優しく握る……って。オイ?!

「あの。この方、まさか」「俺の妻だが」うそっ??!


 「……どんな犯罪を犯したらそうなるんですか」「怒るぞ?」

エイドはそういったが、肩をがっくり落とす。意外と繊細らしい。

「僕。ファルコなの」「……うそ」

「子供にはなれないけど、友達ならいいそうだ」エイドが苦笑する。

「そういうことだね」「……アーリィ。しっかりして。その子は私の子」

……???


 あの。その。

「えっと、おじょうちゃん」

俺は思わず栗色の髪の子に聞く。


 確かに、

確かにこの子たちもグラスランナーだし、

さっきからうちの子だの息子だの言ってるが。


 「おじょうちゃんって」

「この子産んだ」うそっ???!!!


「どっやってお前ら繁殖してるんだよっ??!」

舌噛んだ。くそっ。


 少し顔を赤らめる栗髪の子。

どうみても5歳児なんだが?!


 「やることやって?」

黒髪の子。どうみても5歳児。

「……とおさん。ちょっとソレ」

そういって呆れるファルコ。

……三人とも同い年にしか見えないんだが。


 納得したのか、

アーリィは立ち上がる。

「そう……宜しく。ファルコさん」


 「ファルでいいの!」

ファルコは天使のような微笑みを向けた。

 「うん。ファルちゃん。

なにか食べていく?お姉さんが奢ってあげるよ?」「やった!」


 「……ところで、寒くない?アキ」

アーリィはそういって少し自らの肩を抱いて震えてみせ……店の惨状に気がついた。


 「……」

目が細くなる。

彼女の視線が俺たち全員を捕らえる。


怖いッ!!!!!??? エイドより怖いッ??!!!!!!!!


 「誰が、こんなことをしたのか。説明しなさい」

エイド含め、俺たちは全員床に正座していた。

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