1 不治の病だが治らないわけではない
「チーア!!!!!! 」
俺の身体が宙に舞った。
激しく壁に叩きつけられる。
口の中に溢れる鉄の味。
血の味から、俺は殴られたんだと気がついた。
「結核を癒しましたね?! 」
持祭のジェシカは言葉は少ないが手が早い。
その顔は怒りに燃えている。
「栄養剤と、友人の医者が作った薬、あと体内の精霊力の調整のみです」
俺には病気を治す奇跡を使うことはできない。
「あの子の母親を、癒しましたね? 」
うっせーな。さっきから抵抗力を高める施術しかしてないって言ってるだろ。
あと、あんまりにも周りが汚いので俺とファルコで掃除と洗濯もやって、ロー・アースが家の修理してたが。
「なんでジェシカに殴られないといけないんだっ? 」
殴り返す俺。迎え撃つジェシカ。
「チーア??! 」「やめてっ?! ジェシカ様! 」「ちょ! チーアッ! 待ちなさいッ! 」
同僚の下級神官や神官たちが身体を張ってとめようとするが、
キレると素手で鉄板をぶち抜くジェシカを止めるには至らない。
「結核が『治った』のですか? 」
慈愛に満ちた優しい声は、『平和』の奇跡を使わずとも荒れる俺達の手を止めるには充分だった。
黒髪黒目。長身の清楚な美女。
おつきの神官たちも美女ぞろい。いい趣味である。
「チーア。『また』やってしまいましたね」彼女はにっこりと謎の微笑みを浮かべていた。
もちろん、厄介ごとを押し付けるためである。嗚呼。
「ジェシカ。俺。逃げていい? 」「絶対駄目です」
俺達は喧嘩の手も止めてため息をついた。