5 夢幻竜
「む。人間の世界で同属に会うとは珍しいな」
気絶したアンジェを介抱する俺たち。
図書室の机にはしたなく軽く腰をかけてくすくす笑ってみているマリアを見て自称・竜の坊やはそう呟いた。
「同属? 」「僕、人のもの黙って取らない~ 」
それは盗賊だ。ファルコ。そしてお前の手癖は真面目に悪いのでまだ改善の余地があるぞ。
最近は言ってから取るようになったけど同意をとる前に走り去ってしまう。
「うむ。人間にして竜族だ。『夢幻竜』だな」「うふふ」
真剣な顔でそう語る自称・竜の坊やにマリアは妖艶に微笑み、机から舞い降りる。体重がないかのようだ。
「太っているのに体重無いっておかしくね? 」
俺がそうぼやくと、マリアはニコニコ笑いながら本がぎっしり詰まった本棚を持ち上げて見せた。
「最近運動不足なんですけど、ちょっと適当に投げたくなりました」「まてまてまて?! 」
凄い勢いで本棚が俺に飛んでくる。ひょえええええええええッ?!
ピタッ。
本棚が空中で静止する。
「夢幻竜殿。夢の世界の住民が現世に直接干渉するのは無作法ではないかね? 」
自称・竜がそういうと本棚は空中をふわふわと動き、元の場所に収まった。
「マリア。だったか? 」
懐くファルコを至福の表情であやすマリアを見ながらロー・アースは眠そうな目で彼女を見る。
「ええ。その節は御世話になりました」
そういって、俺たちに頭をさげ、ついでにファルコの額に軽くキス。ファルコが照れている。
やっぱり、以前の幽霊(?)と同一人物で間違いないようだが、間違いなく生きている人間である。
精霊の力を探ってみたので間違い無いだろう。
ただ、言われて見れば眠りの精霊と夢の精霊の力を感じる。
どちらも眠っている人間からしか感じないはずの精霊の力だ。
「天使が女神を護るように、私は私の領分で行動していますわ。龍大公殿」
そういってマリアは神官服のすそをもって優雅に一礼した。